日本企業がコスト増を価格転嫁できない理由は「デフレスパイラル」

諸外国では企業がエネルギー価格を中心とした原材料価格の高騰によるコスト増を販売価格に転嫁できている一方、日本企業が販売価格に転嫁できない理由はなぜか。それはこの失われた20年とも30年ともいわれる日本経済が生み出した「デフレスパイラル」という恐ろしい現象によるものだと考える。

プロレス技の名前のようにも聞こえるが、日本がこのデフレスパイラルの恐ろしさを実証してしまったことで、欧米各国や中国は「日本化(ジャパナイゼーション)」を避けることに躍起になっている。

森永康平『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)
森永康平『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)

それでは、デフレスパイラルはどのようにして起こり、どのような悲劇を招くのかをみていこう。

きっかけは様々だ。バブル崩壊やリーマン・ショックのように金融市場、不動産市場で資産価格が暴落することかもしれないし、天変地異や戦争などの地政学リスクの高まりによる資源価格の高騰もきっかけになりうる。

国内経済には政府、企業、家計という3つの経済主体があるが、何かをきっかけに景気が減速すれば、まずは政府が経済対策を打ち景気を浮揚させるようにする。その際に考えられるのが金融政策と財政政策だ。しかし、政府が適切な対策を打てなかった場合、デフレスパイラルに突入するリスクは急激に高まる。

適切な対策を打てないというのはどういうことか。たとえば、景気後退局面から景気拡大局面へと転換していく中で、物価も徐々に上昇するとき、中央銀行がインフレ退治をやりすぎてしまい、結果として金融を引き締めすぎて景気の腰を折ってしまう、いわゆる「オーバーキル」を起こしてしまう。あるいは景気後退局面にもかかわらず消費税などの税率を引き上げて消費を更に減速させてしまうなどのことを指している。

消費増税やコロナ拡大で日本経済は大打撃を受けた

そんなことをするはずがないと思う方もいるかもしれないが、直近の例でいえば日本政府は2018年11月から景気後退局面に突入したにもかかわらず、翌年の10月に消費税増税をして景気後退を加速させている。その3カ月後には新型コロナウイルスの感染拡大が起き、日本経済はトリプルパンチを食らうこととなった。