約18年続く「遠距離結婚生活」がスタート

そして1999年2月、ついに「iモード」のサービスがスタートした。電車に乗ったときなどに、実際に使っている人の姿を見ると嬉しくて、もっと普及させたいと意欲が湧いていく。そんな矢先、笹原さんはプライベートで大きな決断を迫られることになる。大阪と東京で離れて、遠距離恋愛していた相手からプロポーズされたのだ。

結婚するなら、今の仕事を辞めて、彼がいる大阪へ行かなければならない。当時の世の中の当たり前として、それが当然と思っていた。だが、仕事が面白くなっていただけに、「仕事か、結婚か」と心は揺れる。

「このまま大阪へ行ったら、たぶん夫婦喧嘩したときに『私はあなたのために大阪へ行ったのに……』などとずっと相手を責めてしまうだろうと。それは健全じゃないと思いました。悩み抜いてふと気づいたのは、結婚と同居は別のことだということ。別居という形を取りながら、彼と結婚しようと決めたんです」

考えを話すと、彼はすんなり快諾してくれ2000年に結婚。月に2回、週末を大阪で過ごし、月曜の朝に東京へ戻るという生活がスタートした。しかし、現実にはやはり体力勝負のつらさがあり、自身の働き方を変えていかなければと思い始めた。

「この先もし子どもを出産したり、親の介護が必要になったりしたら、今の状態のまま働き続けることは難しくなる。だから、いつでも『転職できる人材』になろうと考えたんです」

女性7人でコンサルティング会社を起業

そのためには、まずスキルを身に付けたいと思う。自分の可能性を試そうと、副業を始めることにした。異業種の女性7人でコンサルティンググループを起業する。メンバーには、働き方改革の第一人者とも言える女性実業家、ワーク・ライフバランスの代表取締役社長、小室淑恵さんもいた。

主な事業は、女性向けの商品企画に携わる仕事。女性をターゲットにした深夜の通販番組を企画したり、カー用品店やマンションのモデルルームへの集客を狙ったり、女性ならではの柔軟な発想を求められる現場は刺激もあった。一緒に起業したメンバーはそれぞれ個性が強く優秀な人たちで、自分の実力を客観視できる機会にもなった。

「めちゃめちゃ落ち込むこともありました。クライアントと対面でミーティングしたとき、メンバーの中でも私の話には興味がなさそうで、クライアントから受け入れられてないんじゃないかなどと過剰に気にしてしまう。一歩会社の外に出ると自分は使えない人材なんだと思い知らされた気がして、すごくつらかったですね」

実はそのころ、会社の業務と副業の両立で無理がたたり、副業の仕事のクオリティが落ちている自覚はあった。ずっと一人で気負っていたが、あるときグループで心許せる人につらい思いを打ち明けて自分の弱さも受け入れられるようになったとき、ようやく落ち込みから脱することができたという。この失敗を経て、「受けられないときは、『質が落ちるから今は受けられない』とハッキリ断るか時期をズラす」「いっぱいになってきたら、その少し前にうまくセーブする」など、複数の仕事を受ける上でのバランス感覚が身に着いた。

NTTドコモで管理職に昇進したのは35歳のとき。905i、906iなどの端末シリーズのリブランディング プロジェクトリーダーに抜擢された。そのリリースが決まったときに、社長や役員が会議室に集まって熱く握手していた光景が今も目に焼き付いている。新たなドコモのプロジェクトが動き始め、その現場に携わる高揚感もあったという。