ドイツはEU主要国の中でも天然ガスのロシア依存度が高く、2020年時点で輸入の65.2%をロシアに頼っていた(図表1参照)。3月5日には北部シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州のブルンスビュッテルで液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設すると発表するなど、ショルツ政権は天然ガス調達の多様化にも取り組む方針だが、あくまで再エネを主力とする方針に変わりはないようである。
見切り発車で「脱ロシア」に突き進む欧州は成功できるのか
石炭火力の延命を図るギリシャや再エネ投資を加速させるドイツ以外にも、今後EU各国はそれぞれの事情に合わせて脱ロシアの動きを加速させていくだろう。またロシアがウクライナに侵攻する前から、フランスや中東欧諸国は原発の増設を志向していたが、そうした動きにも弾みがつくと考えられる。例えばフランスのマクロン大統領は2月10日、原発の増設計画を発表していた。
具体的にフランスの動きを確認すると、同国は2028年までに国営原子力企業オラノの独自規格である欧州加圧水型炉(EPR)の次世代型であるEPR2の建設に着手、計6基を建設する方針だ。また追加で8基のEPR2の建設を検討するほか、10億ユーロ相当の小型モジュール炉(SMR)の開発支援も行う。同時にフランスは、再エネに関しても積極的な投資を行う予定である。
とはいえ、本当にEUが2030年までにロシア産の化石燃料の利用をゼロにできるかは不確実である。加えて、それぞれの取り組みには課題もついて回る。LNGの輸入やロシア以外からのパイプラインによる天然ガスの輸入は、ロシア産の天然ガスを輸入するよりもコストが高くつくはずだ。また石炭火力発電の場合、温室効果ガスが排出されるため脱炭素化目標との兼ね合いが問われてくる。
それに再エネ発電の場合、安定性の低さ(気象条件に左右されること)をどう克服するかという問題がある。さらに原子力発電の場合、使用済み核燃料の中間貯蔵施設や最終処分場の議論が避けて通れないはずだ。こうした問題についてまだきちんとした解答を示すことができていないまま、EUおよびEU各国は、ロシア産の化石燃料からの脱却を目指そうとしているのが現状と言える。
そうは言っても、今後も「脱ロシア」を念頭に置いたエネルギー政策の在り方が欧米を中心に模索され続けることになるはずだ。その動きは、石油やガスといった化石燃料を中心とするエネルギー価格の上昇圧力になるだろう。日本もまた2021年10月に「第6次エネルギー基本計画」を策定したばかりだが、今般の情勢に鑑み、その再考が求められるところである。