ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって1カ月半が過ぎた。元外交官で作家の佐藤優さんは「ロシアがキーウの包囲を解いたのは、ウクライナ側が停戦協議で譲歩して、中立化や非核化を受け入れる旨の書面を提出したことを口実に、戦力を東部と南部に集中するためで、ウクライナの国家体制を解体するという戦略目標は維持している」という――。
アンドレイ・ニキーチン・ノヴゴロド州知事の話を聞くウラジミール・プーチン大統領(=2022年3月22日、ロシア・モスクワ、クレムリン)
写真=SPUTNIK/時事通信フォト
アンドレイ・ニキーチン・ノヴゴロド州知事の話を聞くウラジミール・プーチン大統領(=2022年3月22日、ロシア・モスクワ、クレムリン)

この戦争には、政治思想もイデオロギーもない

ウクライナへの軍事侵攻が始まって、1カ月半が過ぎました。多くの犠牲者と難民を発生させたロシアの罪は、厳しく指弾されるべきです。民間人を虐殺するなど、断じて許されません。

私は、今回の戦争で、国際秩序が第1次世界大戦の前に戻ってしまったと考えています。この1か月半で時計の針は100年以上も逆戻りし、東西冷戦時の理屈さえ通らないほど大きな変化が生じてしまいました。

国連憲章では、少なくとも加盟国に関しては、国家間の紛争解決に武力を用いないという建前でした。それが、音を立てて崩れてしまったのです。これから先は国家間の紛争を武力で解決しても構わないという、大きな世界思想の変化が起きつつあります。

この戦争は、特殊な政治思想やイデオロギーに基づいていません。ごく単純な、帝国主義戦争です。レーニンが著書『帝国主義論』の中で言っている、典型的な植民地争奪戦なのです。ロシアにとって、アメリカの植民地に見えているウクライナを取り戻すのですから、植民地の再分割です。

共産主義を世界に広めていくとか、ナチズムによって東方世界を支配するというようなイデオロギーは、まったく存在しないのです。

当初のシナリオは頓挫したが、プーチンは諦めていなかった

ロシアの侵攻作戦が、当初の思惑通りに進まなかったことは確かです。しかし、首都キーウ(キエフ)まで電撃的に占領する戦術をプランAとすれば、時間がかかった場合のプランBを用意していないはずはありません。ひとつのシナリオが頓挫したから途方に暮れているはずだ、と見なすのは無理があります。

全体の戦況において、ロシア軍が優勢であることは事実です。キーウの包囲を解いたのは、ウクライナ側が停戦協議で譲歩して、中立化や非核化を受け入れる旨の書面を提出したことを口実に、戦力を東部と南部に集中するためです。ロシア軍が苦戦して撤退したという西側の報道を鵜呑みにすると、情勢を読み誤ります。

プーチン氏はウクライナの国家体制を解体するという戦略目標を維持しています。