単に販売方法をIT化するのは“なんちゃってD2C”

では従来メーカーはどうしたらいいのだろうか。

よくあるのが「われわれもD2Cに取り組もう」と言いながら、単にECを始めれば良いと勘違いしているケースだ。しかし、D2Cの「C」は「Consumer(消費者)」であり、ECの「C」の「Commerce(販売)」ではないことに注意してほしい。

販売方法を単にIT化しただけでは顧客と直接つながっているとは言い難く、一部の販売プロセスをITに置き換えただけである。これは業務フローの一部をIT化したことでDXを始めたと言っているような“なんちゃってDX”と同じことが起きている。

D2Cメーカーは顧客と直接つながってビジネスをする中で、新しい価値を生み出しているから強いのである。リアルな流通網をほとんど持っていなかったからデジタルの力を使ったのである。

例えば、消費者とダイレクトかつ双方向につながったコミュニケーションで、企業の理念やブランドの価値観・世界観、製品が消費者にもたらすベネフィットを丁寧に伝える。顧客の購買行動をデータで把握してすぐに施策に反映する。購入した顧客の意見を直接吸い上げて商品企画や開発、業務プロセスの改善につなげる。

デジタルを活用し、顧客と直接つながったメリットを活かして真摯しんしに顧客に向き合ったビジネスをした結果、これまでの流通構造の常識を変革し、今までの流通構造ではできていなかった価値を、消費者に提供できるビジネスモデルになった。

全力で顧客に向き合えば、自然にDXは実現する

すなわち、DXを目的にしたのではなく、D2Cビジネスをオンラインで、デジタルをフル活用して行った結果DXが起きていた(デジタルによる流通構造変革を起こして価値を作った)のである。

いかがだろうか。従来メーカーができないことはないのではないだろうか?

流通構造上、メーカーと顧客との間に中間のプレイヤーがいたとしても、その気になれば全力で顧客に向き合ったビジネスをすることはできるだろう。デジタルで顧客とつながり、顧客の行動や声をデータで把握し、ブランドコミュニケーションや商品開発につなげる。

形式的なDXを目的にしたデジタル推進ではなく、D2Cを推進するためにデジタルやデータを活用し、これまで当たり前だった社内構造を変えて部署全体・全社横断的に顧客を見たビジネスにシフトしていけば、結果としてDX(デジタルによる社内慣習の変革)が起きているはずである。

これが、メーカーのDX実現への最短距離はD2Cビジネスを推進することであるという理由である。