嫁の復讐

夫が帰宅すると、佐倉さんは義母の妄言について話した。夫はすぐに離れに行き、義母と話をした。すると義母は、「あんたらのことを心配してやった」と言ったという。佐倉さんは、「心配してのことのなら、実家の母を泣かせ、私たちの名誉を毀損きそんしても構わないと言うの?」と呆れた。

夫には、「病気なら病院へ、そうでないなら、きちんと謝罪させて!」と言ったが、やれ「仕事が忙しい」やれ「本人が納得しないと……」などと言い訳三昧。

佐倉さんは義母を精神科に連れて行くため、義父の主治医に相談。1週間後に予約が取れ、診察の結果は認知症ではなく、「精神疾患」だった。「思い込みがひどいので、うちの病院では面倒をみれない」と言う医師に紹介状を書いてもらい、入院できる精神科を紹介された。

ところが、認知症ではない義母は、何と答えたら入院を免れるか心得ていた。義母は紹介された精神科に行ったが、入院も薬の処方も断って帰宅。佐倉さんは唇を噛み締めた。

しかし、この妄言事件以降、佐倉さんは一切、義母と関わることをやめた。これまでは義父を亡くし、一人ぼっちになった義母を気遣い、一日に一回は離れにいる義母の様子を見に行っていたが、もうしないことに決めた。何か用事があるときは、すべて夫が対応することに。

「私が義母に関わることから手を引いたのは、医師からも精神疾患だと言われているのに、紹介された精神病院に何カ月も連れて行かなかった夫が言い訳ばかり繰り返し、義姉からもあることないこと言われているのに、はっきり言い返せないことに幻滅したからです。でも、関わらない宣言をしてからも、夫が『(俺には対処が)できない』と泣きつくので、義母の施設入所に必要な下着や衣類の購入と、名前書き、裾上げなどはしてあげました。『お義姉さんにやってもらったら?』と言ったのですが、夫が頼むわけないので……」

佐倉さんは再三、「お義母さん、骨になってもわが家には帰らせないからね」と夫に言い、関わりを絶ってから2年もの間に、義母は持病のリウマチや骨粗しょう症が急激に悪化。

2018年後半にはトイレの失敗が増え、オムツが必要になった。定年退職目前の夫は、朝、義母のオムツを替えてから出勤し、帰宅してまずオムツを替える生活に。やがて夫がショートステイのロング利用ができる施設を探し、入所すると、そこで特養の空きを待った。

オムツを広げてみせるシニア女性
写真=iStock.com/Toa55
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もし義母の妄言事件がなく、佐倉さんが義母を介護し続けていたら、義母の持病のリウマチや骨粗しょう症はこんなに早く悪化しなかったかもしれないが、すべては義母自身が招いたことなのだ。

2020年1月、ようやく空きができて特養へ。現在は何度目かの誤嚥性肺炎の入院を経て、療養型施設に移っている。