ウクライナとナチスとの関係は、国内外で大きな議論のテーマになっている。ウクライナは1941年から1944年にかけてナチス・ドイツに占領された。この時、一部のウクライナ人は侵略者に抵抗したが、ソ連からの独立を模索していたステパン・バンデラのようなナショナリストたちは、ナチス・ドイツと協力してソ連と戦うことを選んだ。現在のウクライナでは、ナチス・ドイツによるホロコーストも、その約10年前にソ連の統治下にあったウクライナで起きた人為的な飢饉「ホロドモール」も、ウクライナ人に対するジェノサイド(大量虐殺)だったと見なされている。

1991年に独立を果たした後のウクライナでは、ビクトル・ユーシェンコ元大統領をはじめとする一部の指導者が、バンデラのレガシーを高く評価してきた。それにより、ウクライナ・ロシア間の緊張が深刻化。2014年の反政府デモで西側諸国との関係強化やNATOとの連携を目指す政府が誕生すると、ロシア政府はウクライナを「極右勢力が率いている」と主張した。この西側寄りの政権の誕生が、ウクライナ東部での親ロシア派による武装蜂起、そして南部クリミア半島のロシア併合につながった。

「ナチ化」阻止は本当か

本誌はこれまでにも、ウクライナ軍と民兵組織の中に極右やネオナチの支持者がいると報じ、複数の専門家や元当局者に話を聞いてきた。彼らは軍や民兵組織の中にそうした者がいること、そして彼らが(ロシアによるウクライナ侵攻の前もその後も)西側諸国からの軍事支援を得ることについて、警鐘を鳴らしていた。

一方で彼らは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナに対する「特別軍事作戦」はウクライナの「非ナチ化」のためだと正当化したことについては、「プロパガンダ」だとして一様に異議を唱えた。極右は「ユーロマイダン(2014年にウクライナで起きた反政府抗議運動)」で一定の役割を果たしたが、隣国ロシアと地政学的に距離を置くことを求めるウクライナ社会のより幅広い層とも協力した。

ロシアはウクライナ侵攻のせいで、国際社会から政治的にも経済的にも孤立しつつあるが、それでもロシアの当局者たちは、ウクライナ国内で活発に活動する極右の存在を強調し続けている。

「ヨーロッパがつくり出した病的な雰囲気や憎悪が、ウクライナのナショナリストたちを、取り返しのつかない行動に走らせないという保証はどこにもない」と、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は3月9日の会見で述べた。