中国にとってプーチンは安心安全な指導者

両国の国力を総合的に見れば、中国はロシアよりもかなり強い。ロシアは中国に依存しており、中国はかなりの程度ロシア国内に進出している。普通に考えれば、ロシアにとって恐るべき状態である。にもかかわらずなぜ、プーチンは安心して中国共産党に身を委ねるのか。

疑問に思うであろうが、答えは簡単である。

それはロシアが中華秩序の一部であるかぎり、プーチン体制は安泰だからである。少なくとも、中国の手でプーチン体制が倒されることは100パーセントありえない。中国からすれば、プーチン体制が続く限り、ロシアは中華秩序の一部であり続ける。

しかしプーチン体制が覆ったら、次の指導者は中国からの離脱を図ろうとするかもしれない。それは中国にとって厄介なことである。だから欧米陣営に寝返る恐れのないプーチンは、中国にとって安心・安全で最高なロシアの指導者なのである。

中国のほうもロシアを潰すつもりはないし、領土を併合するつもりもない。理由は先述したアメリカとの対立において、ロシアの国力が必要だからである。しかも今の中国は、ロシアの国力を利用できる状態にある。親中プーチン政権が習近平の言うことを絶対に聞くからである。

中国とロシアの国旗
写真=iStock.com/Oleksii Liskonih
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中国にとってロシア侵攻のメリットは少ない

仮に、中国がロシアの広大な領土を併合すると決めたとしよう。その場合は軍事力を総動員して、ロシア極東やシベリアの地域を制圧しなければならない。もしくは中国人を戦略的に、大量にロシア国内に入れ、その地域に「北中華」などの名前をつけて、ロシアからの独立を宣言させる。あるいは土地の買い占めなど似たような方法でロシアの領土を制圧する。

中ロの国力の差を考えれば、不可能な話ではない。しかし、中国はそれを実行しないだろう。もし実際にロシア領土を併合したら、どうなるか。当然、残ったロシア人は中国の敵になり、全員が中国を憎むようになる。そして、米中対立において中国は不利になる。

たしかにロシアのシベリアや極東を制圧できたら、中国は膨大な領土や資源を手に入れて、さらに巨大な国家になれる。しかし、それで中華陣営全体が強くなるかといえば、ならないのだ。ロシアの東半分を制圧した場合、中国の国力はどれほど上がるのか。正確な計算は難しいが、今のロシアの国力の2、3割が中国の国力にプラスされる、といった程度だろう。

しかも残った半分のロシアは敵になる、というマイナスも生じる。中国にとってそれでは足りない。習近平はロシアの国力を100パーセント自分のものにしたい。というか、ほぼ手中にしている。ロシアはすでに中国陣営の一員だからだ。したがってロシアの国力のたかが2、3割を呑み込むために、ロシアを丸ごと利用できる現状をわざわざ潰すわけがない。

中国にとって、地球儀でシベリアと極東がどの色に塗られているかなど二の次の話なのである。重要なのは、その膨大な領土が中華陣営の勢力圏にある、ということなのだ。中国にとっては、「ロシア連邦」という形をそのまま残し、友好を謳いながら段々ロシアを中国化することが最善の方法である。