返事がなくてもあいさつは欠かさずに

本人はありとあらゆる言葉ですでに自分を責めているので、傷口に塩を塗り込むようなことは必要ない。むしろ、それを消し去れるほどのプラスのメッセージを送ってほしい。

「あなたには生きる価値があるし、誰よりもあなたを大切に思っている。あなたの人生を精一杯応援する」というメッセージを送り続け、エネルギーを溜める手助けをしてほしいと思う。

また、関わり方としては、できるだけ普通に家族の一員として接することが大切だと思う。たとえ返事がなくても「おはよう」「○○に行ってくるね」などと声をかけたり、腫れ物に触るようにするのではなく、他の兄弟とできる限り同じように接してほしい。

プレッシャーは脅しになる…親が口にしてはいけないNGワード

声掛けのヒントとしてNGワードとOKワードも紹介したい。

NGワードの一つは「○○ちゃん、就職したんだって」とか「△△くん結婚したらしいよ」など同世代と比べること。また、「これからどうするの?」「お父さん、もうすぐ定年なんだけど」「もううちにはお金がない」などプレッシャーをかけるような声掛けもNGだ。

親にすれば少し背中を押して動いてもらおうという思いで出る言葉だろうが、これはプレッシャーというよりは脅しであり、本人をよりひきこもらせるには効果的だが前に進んでほしいと思うなら最悪の言葉かけである。

また、「学校行かなくていいし、仕事がつらいならしばらく休めばいい。でも、せめて朝は起きよう。散歩くらいはしよう」というのもNGで、そんなことができるならとっくにやっている。

好きなこと、趣味の話はOK

ではOKワードは何かというと、社会問題や話題になっている人の話、本人の好きなことや趣味についてなどだ。

実はひきこもりの人は投票率が高いといわれることもあり、社会問題に関心がある人も多い。ニュースなどをよく読み世の中の動きに敏感であり、自分事として政策や福祉の在り方などに関心を持つとも考えられる。

新聞
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また、ゲームを一日中やっているようだったら教えてもらって一緒にやってみるとか、本人の好きなことについて聞いてみたり教えてもらったりするのもいい。スマートフォンやパソコンに詳しい当事者もいるので、習ってみるのも良いと思う。

林恭子『ひきこもりの真実 就労より自立より大切なこと』(ちくま新書)
林恭子『ひきこもりの真実 就労より自立より大切なこと』(ちくま新書)

口は利かないが釣りやドライブには親と一緒に行くという人もいる。一緒に過ごす時間を増やすのも、いつか話ができるようになるには大切なことだと思う。

また、本人が家から、自室から出ない、口もきかないという場合、起きていることをそのまま理解してみてはどうだろうか。外に出ないということは家のほうが良く、外が嫌なわけだ。外に何かつらいこと、抵抗を感じることがあるのではないか。

口をきかない場合、何かそうする理由があるはずで、以前に本人の気持ちをきちんと聴かずに否定したことはなかったか、いつも本人の希望とは違うことをしていないか、などと振り返ってみるのも良いのではないかと思う。