無意識は絶大な力を持っている
ただ、ポジティブな刷り込みよりもネガティブな刷り込みのほうが、大人になってから大きな影響を及ぼします。なぜなら、子ども時代に受けた侮辱や傷を二度と味わうことがないように、「内なる子ども」がいろいろな対策をとるようになるからです。
また、「内なる子ども」は、子ども時代に満たされなかった「守ってもらいたい」「認めてもらいたい」といった願望を、大人になってから満たそうとするようになります。子どものころの不安と渇望は、大人になってからも無意識下で作用しているのです。私たちは自分のことを“自らの力で人生を築いていく自立した大人だ”と思っていますが、本当は、「内なる子ども」が私たちの認識、感情、思考、行動の多くを決めています。しかも、その影響力は私たちが思っているよりもずっと大きいのです。無意識が私たちの経験と行動の80~90%を操っているということは、科学的にも証明されています。無意識はまさに絶大な力を持つ心の裁判所のようなものなのです。
理不尽な怒りの原因は、心の傷
このことをもっとわかりやすくするために、例を挙げてみましょう。
ミヒャエルは、自分にとって重要なことを妻のザビーネが忘れると、毎回ひどく腹を立てます。最近も、ザビーネがミヒャエルの好物のソーセージを買い忘れてしまい、ミヒャエルはそのことに烈火のごとく怒りました。ザビーネは、たかがソーセージを買い忘れただけで、なぜそんなにミヒャエルが怒っているのか理解できず、ぼうぜんとしてしまいました。しかしミヒャエルにとって、ソーセージを買ってきてくれなかったことは冷静さを失わせるほど重大なことなのです。どうしてこのようなすれ違いが起こったのでしょうか?
それは、ミヒャエルの心の中にいる「内なる子ども」が「ザビーネがソーセージを買い忘れたのは、僕のことをないがしろにしているからだ」と感じたからです。ミヒャエルの「内なる子ども」がこのように感じたのは、買い忘れたのがザビーネだったからでもなく、好物のソーセージだったからでもありません。過去に心に受けた深い傷のせいなのです。