「野党は批判ばかり」は的外れ

翌2020年、世界は新型コロナウイルスの感染拡大という大きな危機にさらされた。この問題で野党側は対案提示に大きな力を注いだ。民主党政権時代の2012年に成立した新型インフルエンザ等対策特別措置法をコロナ禍で使えるようにすることも、1人10万円の特別定額給付金も、野党の提案だ。

特別定額給付金をめぐっては、政府・与党は当初「収入激減世帯に30万円給付」という案を2020年度第1次補正予算に盛り込んでいたが、野党の提案を受けて与党からも「10万円給付」を求める声が強まり、政府は補正予算の「出し直し」という異例の事態に追い込まれた。コロナ禍での政府対応に批判が集まるなか、安倍氏は8月、持病を理由に首相辞任を表明した。

あの「コロナ国会」を思い返すだけでも十分だろう。「野党は批判ばかり」がいかに的外れであるか、もっと理解されるべきだと思う。

野党は衆院選前に臨む政治状況を勝ち取った

野党が国会で政権与党を追い詰めていったことは、野党各党の候補者一本化という選挙戦術と並び、今年に入ってはっきりと選挙結果に表れ始めた。

菅首相となって初の国政選挙だとなった4月の衆参3選挙(衆院北海道2区、参院長野選挙区両補欠選挙と参院広島選挙区の再選挙)では、野党が3戦全勝。特に参院広島選挙区再選挙での野党勝利は政界を驚かせた。8月に菅首相の地元で行われた横浜市長選は、立憲民主党が推薦する山中竹春氏が、菅氏が公然と推した前国家公安委員長の小此木八郎氏らを大差で破り初当選した。

このまま野党の勢いが続けば、衆院選で思いがけない結果が出るのではないか。そうした自民党内の「怯え」が、衆院選直前の事実上の「菅降ろし」と岸田政権の発足につながった。このことを疑う声は、さすがに政界にもほとんどないはずだ。

政治の流れとは国会の議席の数の移り変わりだけで表現されるものではないだろう、と著者は考えている。衆院選は結果として、権力を私物化して「人治主義」の政治に走り、立憲主義をないがしろにした安倍政権と、まるで安倍政権の居抜きのような菅政権による計9年にわたる政治を、ともかくも後景に退かせた。

まだどこで前面に出てくるか分からない不穏さはあるが、政治の歯車は確かに一つ回った。立憲民主党などの共闘野党は、選挙結果を「先取り」した、つまり選挙を戦う前に、望む政治状況を勝ち取ってしまったのかもしれない。