未来の行動プランを教えてもらう

これは物事を表現する枠組みを変え、自分の気持ちの中にあるネガティブな枠組みをポジティブな枠組みに変えてしまう技術です。「子どもたちが仲悪くなるのは嫌じゃない?」「お父さん、文章に残したほうがいいかもよ」などの言葉を添えて“未来の行動計画”のフレームにしてしまうわけです。

人間が行動できない理由の1つに「相手への気づかいが大きすぎる」というものがあります。だからまず「自分はおかしなことを言うわけではない」と考えるようにする。自分自身の意識を改革するのです。「遺言を書くのではなく、未来の行動プランを教えてもらう」と考える。そう切り替えれば、緊張せずに聞くことができるはず。

もし、親の顔色が変わったなら話をやめればいいだけです。どんな交渉でもそうですが、一回でなんとかするなんてまず無理。営業やセールスの経験者ならよくご存じのはずです。初っぱなから契約を結んでもらおうとギラつくと、どうしても不自然なトークになる。「3度目、4度目の交渉でうまくまとまればいいや」と、余裕のある気持ちで臨んだほうがいいと思います。

怒り出しそうな親の場合、話を始めるタイミングも重要です。遺言書は、病気で倒れたりしたときに書くこともありますが、それこそ「私が死ぬのを待っているのか!」となります。ですから、むしろ元気なときにこそ遺言書の準備をしたほうがいいです。また、お腹がすいているときはイライラしがちなので食後にするとか、何か良いことがあった後にするとか。閉鎖的な性格の人でもふっと心が開くときがあるものです。寒い日よりポカポカ陽気の良い日に話す、親が朝型か夜型かにより午前中に言う、夕方以降に言うなど機嫌や体調が良いタイミングで切り出したほうがいい。

正月に兄弟姉妹が集まる際は、事前に必ず根回しをしておくこと。1人で言うのではなく、兄弟姉妹で「同調圧力」をかけるわけです。

きょうだいに女性がいるなら、女性が話を切り出したほうがよいです。ドイツで行われたコールセンターのクレーム電話の研究によると、女性が対応したほうが断然納得度が高くなったという結果が出ています。男性が言うと、お客様から「なんだその口の利き方は」となるのに、女性だと角が立ちにくい。もし男性が話をするなら、できるだけ温かみのある表情や声のトーンを意識すること。

「遺言書を書いてください」切り出し方10のポイント

「実はお話があります」と言うと、親も「何事か」と身構えます。世間話にすれば、身構えずにいられるわけです。昔から、職場の喫煙所、給湯室、トイレは本音が出やすいと言われます。心理学では「環境要因」と言いますが、そういう“無防備な状態”をつくるのも効果的です。

最後に、そもそも遺産といっても、親のお金ですから、親が好き勝手にお金を使うのはいいのではないかと思います。むしろ使い切ってくれたほうが、喧嘩もないですから。もし、心配なら「お父さん、葬儀代だけ残しといて」と伝えておけばいい。そういう関係だと楽だと思うんですけどね。(心理学者 内藤誼人氏)