「般若心経の教えの真髄は『色不異空空不異色色即是空空即是色』の16文字にあるんじゃないでしょうか。己を空しくする。つまり無心になることで、こだわりや欲を捨て去ることができるようになります。そうすることで、巡り巡って自分の思いがかなうようになると教えてくれているのです」
こう語るのは、元衆議院議員で財務大臣や内閣官房長官などの要職を歴任した塩川正十郎さんだ。
塩川さんが般若心経の教えに初めて触れたきっかけは、奈良・薬師寺の管主を務めていた高田好胤さんと青年会議所の活動を通して出会ったことにある。塩川さんが衆議院議員に初当選した1967年当時の薬師寺は財政に苦しんでいた。そして復興の任を委ねられた高田さんは、写経をしてもらい、その納経料を浄財にあてる「お写経勧進」を思いつく。
そして、広く世の人に勧められないかとの相談を高田さんから受けた塩川さんは、2人で当時の佐藤栄作総理大臣を首相官邸にアポなしで訪ねる。対応した秘書官が理解を示してくれて、すぐに佐藤総理に話を通し、執務室へと案内された。そこで思いがけないものを目にする。
「いきなり佐藤総理に自分の机のところへ来るよういわれました。すると、机の上のガラス板に般若心経が挟んであるんです。佐藤総理は、毎日これを読みながら仕事をしているのだと話されました。また、般若心経の真髄は『色不異空空不異色色即是空空即是色』にあるとの教えを受けました。結局、政治家として宗教に肩入れはできないといわれましたが、佐藤総理からの勧めもあって写経を始め、般若心経を学ぶようになったのです」