なぜか。伝統的に「男尊女卑」の風潮が根強い中国でも、羅の告発をきっかけに、沈黙を強いられてきた女性たちがSNSを通じて次々に抗議の声を上げるようになった。大学では学生たちが署名運動を進め、性暴力に対処するよう大学当局に圧力をかけた。職場での女性差別、性暴力の被害者に対するいわれなき偏見、家庭内での女性の役割の固定化など、#MeTooの盛り上がりは、中国社会が抱えるジェンダー差別を浮き彫りにし、この問題が広く議論されるきっかけともなった。

中国政府は当初からジェンダーをめぐる議論の高まりを警戒していたが、愛国主義者や政府寄りのインフルエンサーが女性運動の活動家をバッシングし始めたのは今年に入ってからだ。共産党指導部はこの動きを歓迎し、国営メディアで愛国的インフルエンサーの発言を取り上げて賞賛している。

今年の春には何百万人ものフォロワーを誇る愛国的インフルエンサーが数週間にわたって、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)でフェミニズム活動家に対する誹謗中傷キャンペーンを展開。根拠もなしに、フェミニズム活動家を「外国勢力の支援を受けた反中国分子」と決めつけた。ちなみにこれは、中国政府が抑え込みに躍起になっている香港の民主派活動家に貼られたのと同じレッテルだ。

4月末までに、SNSで発信を行ってきたフェミニズム活動家とNPOのざっと10数のアカウントが一時的または恒久的な停止処分を受けた。活動家の1人、Liang Xiaowenは微博から「違法で有害な情報」をシェアしたためアカウントを停止すると警告されたことをフォロワーに知らせたが、それ以外のアカウントについては停止の理由すら明らかにされていない。

「お前はトイレットペーパーだ」

国営テレビのインターン時代に、名物司会者の朱軍(チュー・チェン)にセクハラを受けたことを告発し、一時はその勇気を賞賛された周暁璇(Zhou Xiaoxuan)でさえ、今ではバッシングの嵐にさらされ、公開アカウントを通じた発信ができなくなっている。

周のもとには今、脅迫じみたDMが殺到している。「中国から出て行け。おまえみたいな奴がわが国にいるだけでも吐き気がする」「おまえはトイレットペーパーだ。外国人に使われ、捨てられる運命にある」といったものだ。

だが、どんな嫌がらせや脅迫も、声を上げ始めた女性たちを黙らせることはできないと、周は言う。

「フェミニストのブロガーを槍玉に上げ、アカウントを停止すれば済むと思ったら大間違い。女性たちがフェミニズムに目覚めるのは、自分が直面している問題の本質に気づいたとき。そして、いったん目覚めたら、あきらめはしない。多くの女性たちに問題の本質を気づかせたこと。それが#MeTooの大きな功績だ」

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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