さらに、EV化で懸念されるのが世界的なリチウム不足だ。バッテリーの材料となるリチウムは希少資源で、都市鉱山からのリサイクルでは、せいぜい4分の1程度しか回収できない。一方で、テスラの特許には、EVに搭載したリチウムイオン電池をほぼそのままリサイクルできる技術がある。

しかもテスラは市場で調達した資金を使って、世界中のリチウムを買い占めている。EVで先行するテスラの優位性は明白だ。

エジソンもマスクも多くの失敗を重ねた

マスクは宇宙分野でも、スペースXで独自のアイデアを発揮している。ロケットの打ち上げコストを下げるため、使い捨てされてきたロケットの第1段部分を再使用できるようにしたのだ。大型ロケットの打ち上げは100億円が相場として、スペースXの「ファルコン9」は60億円台と大価格破壊を実現した。

ロケット第1段は、打ち上げ後に戻ってきて、海に浮かべたドローン船に逆噴射で着陸する。当初は爆発して失敗したこともあったが、実験を繰り返して成功させた。エジソンが白熱電球のフィラメントを開発していたとき、耐久性に強い日本の竹にたどり着くまで数千種類の素材で実験を繰り返したのと同じだ。アイデアを発想し、実現し、事業化する力を持つマスクは、現代の頂点に立つエンジニアだ。

イーロン・マスクは、EVや宇宙事業以外にも、地下トンネルを使った新しい交通システムにも挑戦している。「ループ」と呼ばれる計画で、自動運転のEVがトンネル内を時速240キロで疾走する。ワシントンD.C.とボルティモアを結ぶ約56キロを15分程度で移動できる計算だ。

マスクがもともと考えていた「ハイパーループ」の構想は、真空にしたトンネル内を時速1100キロほどで旅客を輸送するというものだ。クルマで6時間はかかるロサンゼルスからサンフランシスコまで約30分で移動できるという。地球の重力で落下するように高速で進み、目的地で地上近くまで再浮上する。真空状態で空気抵抗がなければ可能だとマスクは考えている。やや眉唾な話ではあるが、マスクなら実現するかもしれないという期待はある。

テスラが時価総額だけでなく販売台数で世界一の自動車会社になるには、マスクの代では難しいだろう。GMにしてもトヨタにしても、世界一になるまでに3世代、4世代かかっている。GEが花開いたのも、創業者のエジソンが死んで半世紀ほど経ってからだった。イーロン・マスクはまだ50歳と若いが、後継者を育てることも、彼の重要な仕事になってくるだろう。

(構成=伊田欣司 写真=AFLO)
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