政治への大きな発言権と影響力がスイスの幸福の源

——あなたは「日本はすばらしい国」と言いましたが、どこが魅力でしょうか。

決してお世辞ではなく(笑)、日本に対してネガティブなイメージはありません。私は過去に2度、日本を訪れたことがありますが、2度とも「こんなに文化的で落ち着いた国はない」と感じました。人びとは皆フレンドリーで、何よりも、食べ物が世界一美味しい! 日本には、世界から尊敬される点がたくさんあります。

地政学的に見れば、日本は興味深い位置にあります。台頭する中国の脅威につねにさらされており、尖閣諸島などの領有権を守るなど国防面での課題が山積している。また貿易で他国との交流が盛んな半面、輸入に頼っているので、交易が閉ざされると大きな打撃を受けてしまいます。

——たしかに日本人は基本的にフレンドリーかもしれませんが、一方で社会における同調圧力の強さが指摘されています。心の奥底では反対していても、表向きは賛同しているふりをして、他人と同じような行動をとりがちです。たとえばマスクを着用する必要がない状況でも、周りからの目を気にして誰もがつけています。

同調圧力は日本だけではなく、アジア諸国のほとんどに存在している気がします。ヨーロッパには、17世紀後半に始まった啓蒙時代から今日まで、それまで主流とされていた思想や宗教を自己批判する文化が根づいています。ただ、アジアはそうではありませんよね。ですから、なかなか変えられるものではないでしょう。

ただしそれが合理的である場合、同調するのは必ずしも悪いことではありません。とくにパンデミックのいまは、アジア諸国の同調圧力はいい方向に働いているように思えます。

——スイスで暮らしていて、同調圧力を感じることはありますか?

まったくありませんね。我々が特定の行動をとるのは、他の人全員がしているからではなく、その行動に意味があると思うからです。私の自宅の近くには中国やトルコ、日本などアジア諸国の大使館がありますが、職員たちは車を1人で運転しているときでさえマスクをつけています。まったく意味がなく、正直に言って理解できません。

もちろん私も、屋内にいるときや近距離に人がいるときはマスクを着用します。でもあなたが言うような「必要がない場合でも批判を恐れて行動する」という意味の同調圧力を感じたことはありません。それがヨーロッパの考え方です。

大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)
大野和基インタビュー・編『自由の奪還 全体主義、非科学の暴走を止められるか』(PHP新書)

——2020年3月(当時)に「世界幸福度ランキング」が発表され、あなたの国スイスは3位、日本は62位でした。日本は「健康寿命」では上位ですが、「人生の選択の自由度」と「他者への寛大さ」では順位が低い。両国の差は何から生まれているのでしょう。

私は幸福についての専門家でもありませんので、スイスの経済学者ブルーノ・フライ(チューリッヒ大学教授。著書に『幸福度をはかる経済学』NTT出版)の研究を参考にしましょう。彼は、幸福度を測る重要な要素の一つは、市民がどれくらい政治や社会に影響をもつことができるかである、と述べています。

スイスでは毎週のように、何かしらの社会問題について住民投票が行なわれます。たとえば市が路上に花を植える際、橋の向こう側に植えるかこちら側に植えるか、といった事項も住民投票で決定する。市民が政治に対して、大きな発言権と影響力をもっているのです。その姿はまるで、「democracy on steroids(ステロイドに依存した民主主義:極端な民主主義)」と言っても過言ではない。面倒にも思えますが、こうした面倒がスイスの幸福度を高めているのでしょう。

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