「ビールの誘惑にひきずられてはならない」

しかし歴代ラムセス王のアルコール好きが万人に共有されていたわけではない。

ブノワ・フランクバルム『酔っぱらいが変えた世界史』(原書房)
ブノワ・フランクバルム著、神田順子/田辺希久子/村上尚子訳『酔っぱらいが変えた世界史』(原書房)

当時の倫理を説いた『アニの教訓』には次のように書かれている。

「ビールの誘惑にひきずられてはならない。自分が考えているのとは逆のことを口にしてしまう。自分が話したことも忘れてしまう。足がふらついて倒れても、だれも手を貸してくれない。そしていっしょに飲んでいた者たちも立ち上がって言う。『この酔っぱらいを追いはらえ』と。だれかが助言を求めにやってきて、あなたが倒れているのを見たら、まるでみじめな子どものように見える」

こんな無粋なことを言い出す者がいたら、どんなすばらしい楽しみも終わりになってしまう。

アルコールの禁止とともに大規模建築も消滅

七世紀以降はエジプトのイスラム化にともない、アルコールの消費量は減少した。ワイン(アラブ人はハムルという)などは原則的に禁止されている。飲んだ者は笞打ち四〇~八〇回を受ける。

金持ちのエジプト人は加熱処理した甘いワイン、干しぶどうやナツメヤシ、蜂蜜のワインを飲むことができたが、それも一〇〇九年以降は禁止された。この時代から見ると、ピラミッドなどの大規模な墓廟の建設は遠い昔の話になる。

そこで懐かしく思い出されるのが、ロンドンの大英博物館に保存されている、葬儀神官ホレムケネシの「欠勤簿」だ。ホレムケネシはラメセウムで働く労働者四〇人を監督していたが、半年間で皆勤はわずか二人だったと嘆いている。残りの三八人の欠勤理由はさまざま。上司や同僚への「奉仕」、詳細不明の「体調不良」、妻や娘の生理痛、そしてずばり、ビールづくりや二日酔いである。

〈原注〉
※1 La femme au temps des pharaons. Christiane Desroches Noblecourt. Stock. 2001.
※2 L’histoire du monde en six verres. Tom Standage. Kero. 2019.
※3 La vie quotidienne en Égypte au temps des Ramsès. Pierre Montet. Hachette. 1946.

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