「被災地のことを思えば、皆でできることをしていくのは当然です。でも正直3カ月が限度。この状態がずっと続くのはつらいですね。子どもと過ごせる時間を以前にも増して貴重に感じるようになりました」
共働きの2人にとって、家族の時間を確保することは容易ではない。共働きでなくても、家族と過ごす時間が取れないビジネスマンは大勢いる。しかし、震災を機に自分にとって何が大切か考え、家族との時間を優先するという選択をし始めた人もいる。
現在、転職活動をしている森内肇さん(36歳)もそんな一人だ。勤めている大手IT企業は終電近くまでの残業が日常茶飯事。休日出勤も当然の環境だという。
「家族との時間を増やしたいというのが、転職の大きな理由。2010年に子どもが生まれてその気持ちは強くなり、地震がきて決定的になった感じです」
森内さんは16年前、阪神大震災を経験。住んでいたマンションは半壊し、避難所での生活も体験した。
「身内が亡くなるようなことはありませんでしたが、“人はいつか死ぬのだからやりたいことをやろう”と心に決めたことを先日の震災で思い出しました。いまの僕にとって一番やりたいことは、家族との時間をもっとつくることなんです。仕事はいつでもできる。でも日々成長していく子どもの姿を見られるのはいましかない。会社の業績も給料も右肩上がりの時代じゃないし、家族を犠牲にして働くほど価値があるものが待っているとは思えないんです。それなら後悔しない生き方をして、子どもに誇れる父親でいたほうがいい」
皮肉にも震災後、節電対策で残業が制限され、自宅で過ごす時間が少しだけ増えたという森内さん。
「震災直後は自宅待機となったので子どもと遊びました。昼間自宅にいることに最初は手持ちぶさたな感じがあったんですが、ああ、こういう生活もあるんだなと楽しめるようになりました」
森内さんの会社では震災後、ノートパソコンが支給され、在宅で対応できる仕組みも整えられた。“現実が先にきた”形でワークライフバランスへの関心が急速に高まりつつあるようだ。
(文中の登場人物はすべて仮名)
※すべて雑誌掲載当時