第一波での自粛は「志村けん効果」があった

極めてインパクトの強かった「事件」が、2020年3月末にザ・ドリフターズのメンバーでコメディアンの志村けん氏が、コロナで急死したという出来事であったと考えられます。周知の通り志村氏は、国民的人気のあるタレントでした。しかも死の直前まで元気で、活躍していました。

発症したのは、死のわずか2週間前だったといいます。その彼があっけなく亡くなったというニュースに、驚かなかった日本人はいなかったのではないでしょうか。氏の死去という報は、あらゆるメディアから流されました。その際の報じ手は、緊張感をにじませていました。それは、ミネカが実験で用いた、ビデオ映像のなかのヘビを怖がるサルと同じ役目を演じたものと推測されるのです。

死去を知らせる映像ばかりではありません。生前の元気なころに収録された番組が、亡くなったあとに放映されました。訃報を知らされたあとで見る志村氏の番組は、期せずして、コロナの怖さをヴァーチャルながら、喧伝する機能をはたしたと考えられます。

とりわけ、NHK制作の朝の連続テレビ小説は視聴率が高いことで有名ですが、そのなかで、4月から5月にかけて氏が登場したことの影響は大きかったと思われます。氏が、子どもに人気が高かったことは大変よく知られた事実です。そういう意味では、彼の死はコロナ自粛の教育的効果を発揮しました。あのタイミングでの死がなかったならば、あそこまで日本国内で自粛がすみやかに達成されることはなかったのではないでしょうか。

ひき続いて岡江久美子氏のコロナ感染による死が報道されたのが、だめ押しの役割を演じたのかもしれません。

いまの報道はコロナ感染者の実像が見えない

そしていま、人々が2020年前半のようには自粛しなくなったのには、いわゆる志村けんイフェクトが効果を失ったことが深く関係していると思われます。氏が逝去してすでに半年以上が過ぎ、人々からもマスコミからも、彼はすでに過去の人物とされてしまっていました。

不謹慎と、そしりを受けることを覚悟であえて書きますと、あの第3波の時期に誰か、志村けん氏クラスのタレントがコロナで死亡していたら、状況はまったく違っていたことでしょう。

これは、さすがに暴論かもしれません。だが、私がいいたいのは、メディアが、コロナが命にかかわる危険な病原体であると真剣に考えるのならば、それをアピールする効果的な手法を工夫すべきだろうということです。

志村氏の場合は、たまたま逝去したら、コロナが死因だったというだけで、それが視聴者のコロナへの意識にどう影響するかなどと、考えて報道したわけではありません。そのあたり、もっと自覚をもった番組作りをすべきではないのでしょうか。

先日、NHKニュースを見ていると、コロナに感染し肺炎を発症、重症に陥った65歳以上の高齢者は、血栓症を併発しやすいことが判明した、といっていました。13.2%といいますから、確かに高確率です。以前からコロナ肺炎になると、高齢者は脳梗塞や脳出血を起こしやすいといわれていました。血管が血栓でつまれば、そうなるのは当然だとうなずける話です。

けれども、数字をあげてそんな事実を口にしたところで、受けとる側に恐怖を喚起する効果は見込めません。それを番組制作側は、肝に銘ずる必要があるでしょう。

ニュースを見ていて、コロナで実際に死んだ人、およびその遺族をめぐる映像での報道、ないし重症のコロナ感染者の実像の放送がまったくといっていいほど欠落しているのを、いぶかしく感ずるのは私だけでしょうか。

コロナウイルスcovid-19の新しいタイプで病気になった患者
写真=iStock.com/PatrikSlezak
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