『宇宙からの帰還』を念頭に置いた言葉が自然と出てくる
そのインタビューであらためて知ったことがある。それは立花さんの『宇宙からの帰還』が、現役の日本人宇宙飛行士たちに対しても、今なお大きな影響を与え続けていたことだった。
彼らに自らの宇宙体験について聞いていると、『宇宙からの帰還』を念頭に置いた言葉や表現がときおり自然と発せられた。例えば、「新世代」と呼ばれる宇宙飛行士の一人・大西卓哉さんにインタビューした際、彼は「将来、月や火星に向かうために地球から離れるとしたら、どんな感情を覚えると思うか」という質問にこう答えた。
「アポロ時代よりももっと遠く、地球が他の星と同じような点になるようになることを想像してみてほしいんです。地球が“マーブル”ですらない遠く、夜空の星と見分けがつかないような点でしかなくなっていく。そのとき、僕が宇宙でずっと感じていた安心感は消えてしまうでしょう。
自分が生まれ育った、人類の全てのただ一個の故郷である星。そこから遠く離れた人間は、親から切り離された子供みたいなものです。手の届きそうなところにあったその星が、『帰れる場所』ではなくなったそのとき、人間の精神が受ける影響は計り知れないものがある、と僕は宇宙で思いました。もちろん実際に自分がどう感じるか、その孤独感に耐えられるかどうかは、とても興味深いことではありますけどね」
「宇宙の暗黒の中の小さな青い宝石。それが地球だ」
ここで大西さんは月軌道の辺りから見えるだろう地球の姿を、「マーブル」という言葉で表現している。これはまさに『宇宙からの帰還』のなかで、アポロ15号で月まで行ったジム・アーウィンが、月の軌道にたどり着いたときの光景を振り返る際に使っていた表現だった。
帰還後にキリスト教の伝道師となったアーウィンは、実際に〈大きめのビー玉〉くらいのマーブルを手に持っており、それを立花さんに見せながらこう語るのだ。
〈地球を離れて、はじめて丸ごとの地球を一つの球体として見たとき、それはバスケットボールくらいの大きさだった。それが離れるに従って、野球のボールくらいになり、ゴルフボールくらいになり、ついに月からはマーブルの大きさになってしまった。はじめはその美しさ、生命感に目を奪われていたが、やがて、その弱々しさ、もろさを感じるようになる。感動する。宇宙の暗黒の中の小さな青い宝石。それが地球だ〉