「女子差別」と言い切れない中学受験事情:慶応義塾中等部の場合

なぜ、中学入試の共学校の入試でこのような事態が生じるのか。

たとえば、中学入試の募集人員が男子約140人、女子約50人の慶應義塾中等部には、慶應グループの各校との「兼ね合い」という構造上の問題がその原因になっていると言われている。

付属の小学校である慶應義塾幼稚舎からは例年男子約20人、女子約50人が中等部に内部進学する。一般募集枠を含めるとそれぞれの合計は、男子約160人、女子100人で、明らかに女子の枠が少ない。

だが、これには理由がある。

慶應義塾中等部の女子の大半は、すぐ近くに校舎を構える慶應義塾女子高校に進学するが、同女子校には一般募集の高校入試で約100人が入ってくる。校舎のキャパシティの問題もあって、どうしても中等部から受け入れる女子の人数を少なくしなければならず、そのため中学入試での女子の一般募集枠を男子よりもはるかに小さなものにしなければならないのだろう。

「合格最低点を揃えれば、女子の比率が7割を超えてしまう」

このように学校の諸事情により募集人員上の男女差が生じることもあるが、一方で「男女の人数バランスに配慮した」ために、合格者最低点に男女差が生まれるケースもある。

都内のある共学校(大学付属校)の入試広報担当者が匿名を条件にこんな話をわたしにしてくれた。

「ウチの学校の場合、男女の合格最低点を揃えようとすれば、女子の比率が7割を超えてしまう。そんな男女比になると、学校運営上さまざまな問題が起こってしまうのですよ」

前出の表にあった青山学院中等部(東京都渋谷区)の場合、合格最低点(300点満点)は男子162点、女子191点と30点近くの差が生じている(実質倍率は男子3倍、女子約6倍)。これほどの差は見られないものの、合格最低点や倍率のギャップがある学校は少なくない。

なぜ、こうした女子に不利な状況になってしまうのか。拙著『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)から一部抜粋したい。なお、引用部分に登場する偏差値は四谷大塚主催の模擬試験(合不合判定テスト)での数値を想定している。

〈大手の模擬試験の結果を分析すると、学力のトップレベルに相当する層(偏差値70以上)は男子のほうの占める割合がかなり高くなる一方、学力上位層・中位層(偏差値45以上70未満)は女子の占める割合が高くなります。そして、学力下位層(偏差値45未満)では男子の占める割合がやや高いのです。これは毎年見られる傾向です〉

性差による学力分布にこのような傾向が見られるのは不思議ではあるが、中学受験生(小学校6年生)全体では男子より女子のほうが学力的に秀でていることがわかる。その結果、首都圏の共学校入試では女子同士の競争が激化し、男子のほうが女子と比べて入試倍率、合格最低ラインともに「有利」な立場になる。

矢野耕平『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)
矢野耕平『令和の中学受験 保護者のための参考書』(講談社+α新書)

しかし、ここに男女別学校を加えると、いささか様相が異なってくるのだ。

東京都立中学高等学校協会の2020年度調査によると、東京都にある私立中学校182校のうち、共学校は84校であるのに対し、男子校は31校、女子校は67校となっている。女子を受け入れる学校のほうが圧倒的に多く、有名共学校にこだわらなければ合格のハードルは低いのである。

2020年度の東京都学校基本統計を見てみると、私立中学校に在学する生徒数7万6707人のうち、男子は3万6167人(47.1%)、女子は4万540人(52.9%)と、わずかに女子の生徒数が多い程度。受け入れ校の数からすれば、「私立中学校は女子のほうに広く門戸が開いている」という見方ができる。

しかし、前述したように共学校入試に限定すると、女子のほうが不利になってしまうことが多い。何ともモヤモヤする難しい問題が中学入試には横たわっているのである。