過労で休職に

「上を目指したい!」という夢があった宮野さんはもっと完璧にやらなければと気負う。家へ帰っても仕事が気になり寝不足が続くうち、頭がぼんやりしてふらつくことが増えた。ある日、めまいで倒れこみ、やっと身体の不調に気がついた。しかし、病院であらゆる検査をしても原因はわからない。最後に訪ねた耳鼻科医に「これはメンタルな症状だから心療内科へ行って」と勧められた。自分は精神的に強いと思っていたので「まさか……」と驚くが、診察を受けると、過労からくる鬱病と告げられた。

「休暇を取るよう勧められました。が、それも嫌だったんです。今まで築いてきたキャリアが全部崩れちゃうんじゃないか。このまま働けなかったら本当に辞めなきゃいけないんじゃないかと不安でいっぱいになりました。ここで私のキャリアは終わるのか、と」。

そんな宮野さんを支えてくれたのが、交際中のパートナーだった。「仕事を休みたくない」と漏らすと、彼は「会社を休んでも今まで培ってきたスキルやキャリアがなくなるわけじゃないし、もう一回チャレンジできるチャンスは絶対に来るから、そこでまたチャレンジすればいい。今は休むことが仕事だよ」と励ましてくれた。その言葉で気持ちが軽くなり、上司と相談して休暇をもらうことにした。新しい部署でちょうど一年が過ぎた頃だった。

「クリニックの先生に言われたのは、『とにかく何も考えないことが仕事です』と。でも何も考えないというのはとてもつらいんですよね」と宮野さんは苦笑する。読書や映画も頭を使うので禁じられ、何もしないでただただゆっくり休む。アロマや静かな音楽で心を静め、睡眠は7時間以上とる。最初は慣れなくて大変だったが、だんだん休めるようになると身体も元気になり、散歩に行けるようになった。少しずつ日常生活を取り戻していくなかで、上司と話し合いながら復職を目指した。以前厳しい言葉をかけられた上司だが、いつでも宮野さんの希望や状況を汲んで一番良い方法は何か? と寄り添い、育ててくれる人で、復職後についても親身に考えてくれた。

最重要顧客とのミーティングか、結婚記念日のディナーか

3カ月の休暇を経て職場へ復帰。無理のない業務を任され、働き方も見直していく。宮野さんは社内でダイバーシティの活動を始め、あるとき海外の女性マネジャーに「ワークライフバランス」について聞く機会があった。

「プライベートと仕事を両立するにはどうしたらいいかと質問すると、『あなたは最重要顧客とのミーティングと結婚記念日のディナーのどちらを大事にする?』と聞かれたんです。私は『最重要顧客とのミーティングでしょう』と答えたのですが、彼女は『それではワークライフバランスはとれないよ』と。最重要顧客とのミーティングはもちろん大事だけれど、それはずらせる約束かもしれないし、やり方次第でコントロールできるもの。『ただ最初からプライベートと仕事のどちらも大事にしようと思っていないと、やり方を考えないよね』と言われたのです」。

大切なのは「そのとき優先すべきことはどちらかをちゃんと考える」ということ。宮野さんは仕事を優先するあまりバランスを崩したことを反省し、それ以降は何事も優先順位をつけてこなしていくように努めた。