聞き手本人に「自分が選択した」と感じてもらう
1対1でのフェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションでも、1対多のスピーチやプレゼンのようなシチュエーションでも、相手に説得力、影響力を発揮するために最も適した方法は、聞き手の無意識に働きかけることです。
「こうしてください。うまくいきます」
「このほうがいい結果が出ますよ」
「あなたのためを思ってやっているんです」
「では、そのわけを説明しましょう」
たとえ、あなたの意見が正しくてもこうしたストレートな物言いをされると、聞き手は「そうは言っても」「責任、持てるの?」「自分で決めたい」「上から目線だな」といった反発を覚えます。
ですから、説得し、影響力を及ぼす鍵となるのは、聞き手本人に「私が決めた」「私が選んだ」「私がいいと思った」と感じてもらうこと。
つまり、無意識に働きかけ、あなたの思う方向に行動を促しながら、聞き手本人は「自分が選択した」と納得している状態を作っていくことが大事なのです。
私たちの脳は、無意識レベルで行なった選択について「自己選択」したと記憶します。それが誰かの影響によるものだったとしても、選択の結果が残念なものだったとしても、「自分で決めたことだから」と納得するのです。
では、なぜそんな心理になるのでしょうか。
「~ですが、あなたの自由です」と提案する
一例として、過去に著作や動画でも取り上げてきた、心理学的に最も効果の高い説得術の1つ「BYAF法」を改めて紹介します。
「BYAF」は「But You Are Free」の略で、日本語にすると、「~ですが、あなたの自由です」となります。
アメリカの西イリノイ大学が、説得術に関する研究から質が高い42件をまとめ、およそ2万2000人のデータをメタ分析(科学論文の中で最も精度の高い研究方法)した結果、説得の効果を高める魔法の言葉として見出したのが、この「But You Are Free(~ですが、あなたの自由です)」でした。
たとえば、こんなふうに使います。
レストランでメニューを決めるとき……。
恋人をデートに誘うとき……。
オフィスで上司に企画提案するとき……。
西イリノイ大学の研究では、相手に説得したい内容を伝えたあと、最後の1行に「But You Are Free(~ですが、あなたの自由です)」のニュアンスを加えるだけで、話し手の望む「イエス」が返ってくる確率が2倍になったと報告されています。