たった一度の「壊れてしまった夜」

「ところがなぜかふたりして、“壊れてしまった夜”があったんです。彼は会社で先輩のミスを押しつけられ、その理不尽さに体を震わせていた。私もその話は別の同僚から聞いて頭にきていたので、彼を励まそうとみんなで飲みに行ったんです。最後、彼と私だけ残って、愚痴りながら飲んでいるうちに、彼のことがとても愛しく思えてきて。彼の部屋に泊めてもらったんですが、その日だけは妙な雰囲気になって、ついに一線を越えたんです」

翌日からぎくしゃくするかと思いきや、レイコさんの気持ちはまったく変化がなかった。彼も前と同じように淡々と接してくる。彼とのセックスがよくなかったわけではない。安心感もあったし、最高の夜だとも思えた。だが、ふたりは再び元の関係に自然と戻っていった。

向かい合ってカップを手に持つカップルの手元
写真=iStock.com/AntonioGuillem
※写真はイメージです

「結婚という手法が便利」と考え婚姻届を提出

「ただひとつ、誤算だったのは私が妊娠したことでした。仕事に支障があるかもしれないけど、私は産もうと思った。動揺はなかったですね。彼を呼び出していつものように食事をしながら、『私、妊娠したから生むね』と言ったんです。すると彼は『オレにも子育てさせてよ』と。うん、わかった。そんな会話でした。変ですよね。自分でも変だなと今になると思うけど、そのときは彼との会話が心地よくて、じゃあ、一緒に育ててみるかという感じ」

ふたりで育てるなら結婚という手法をとったほうが便利だよねということになり、婚姻届を出した。社内では、長いこと仲が良かったふたりがやっと結婚したか、とみんなに安心されたという。

「祝福されたのはうれしかったけど、彼も私もパーティーひとつやる気がなくて。でもそれでは周りの人に申し訳ないということで、レストランを借りて土曜の午後に簡単なティーパーティーをしました。お祝いは辞退、私たちが親しくしている人たちにお礼をする会として、完全にご招待。帰りにはおいしいお菓子をほんの少しだけ持って帰ってもらった。時間も2時間弱。来てくれる人の負担にならない会にしたかった」

ふたりの人間性なのだろう。その簡素だが楽しいパーティーは、今でも親しい友人たちの間で語り草になっているという。