父親としての夫を信用して正解だった

夫と彼女が離れられない仲になっているとしたら、絶対に離婚すると彼女は夫に告げた。それはあり得ない、本当にあの夜だけのことだし、誓って性的関係はないとも言った。避妊具の件は、「武士の情けと思って飲み込んだ」とカヨコさんは言う。

だが自宅に帰るとすぐ、新しいソファを注文したのは言うまでもない。

「1週間後くらいに夫が帰宅したとき、新しいソファを見てぎょっとしていました。でも『これで全部、水に流すから』と言ったら、ありがとう、ごめんねと」

あれから7年、夫はこの春、小学校に入学した娘にデレデレだ。その後生まれた長男のときは、カヨコさんの育休が終わってから自身が育休を取得、3カ月ほどではあったが保育園に入れるまで家事育児を万端、引き受けてくれた。

「とはいえ、日常生活のことでケンカもするし、夫がただのいい人になったわけでもない。ときどき、避妊具が減っていたことを言ってやればよかったとも思います。でも、この7年間を思い返すと、家族での楽しいことしか出てこない。子どもたちはお父さんが大好きですしね。あのとき、父親としてのこの人を信用しようと思ったのは、今のところ間違いではなかったかなと感じています」

「この先、私が不倫をしないとは限らない」

人間は完璧ではない。カヨコさんは年を重ねるにつれ、そう思うようになっているという。

「社内でも、あのふたり不倫してるんじゃないという噂が飛び交ったりすることがありますが、会社の人事で派閥が競って足の引っ張り合いをしているような状況からみれば、不倫しているふたりのほうがまだ平和かもなんて思ってしまう。でも家庭にいる人間としてみれば、会社でどんな派閥争いがあってもたいしたことではなく、自分の配偶者が不倫していることのほうがずっと重要。どの視点から見るかで重要度が違う。私が夫を、ひとりの男、ひとりの人間としてではなく、父親という観点だけで見ようとあのとき思ったことがよかったかどうかは、これからにかかってくるのかもしれません」

どういう状況にせよ、自宅に女性を引っ張り込んだ時点でレッドカードという女性もいるだろう。何を許せなくて、何を許せるのかは人によって違うのだ。

「この先、夫が不倫しないとは限らない。私がしないとも限らない。そのときお互いにどうするかはそのときにならないとわからない。でもきっと、私は夫が心身ともに相手の女性に溺れているのでなければ、また許してしまうような気がします」

あの日から、夫は毎日、カヨコさんに「今日もありがとう」「大好き」と言うのだそうだ。カヨコさんは言葉での愛情表現をそれほど重視していないのだが、夫が必死で自分に課しているのであろうそれらの言葉に対し、「ありがとう」「大好き」とオウム返しすることにしているという。

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