自分自身をピュアな状態にしておけば勝手に情報が入ってくる

──海老蔵さんは歌舞伎俳優として多忙な中、Earth & Humanでの環境保全活動や異ジャンルとのコラボレーションまで、1人で何人分も活躍している印象があるけれど、時間の使い方で意識していることは?

あえて言えば「子どもが起きる前に起きる」かな。子どもたちが6時までには起きるから、その前に締め切りのある仕事を片づけ、タスクを整理しておく。そうしないとその日はぐちゃぐちゃになるから。

市川海老蔵氏のアップ

──1日の睡眠時間はどのくらい?

今は5、6時間。移動時間でも、レストランで注文を待つ間も5分あれば爆睡できる。昨夜は3時半まで、今朝は7時過ぎからClubhouseやってて、その後、InstagramとYouTubeでライブもやってきたよ(笑)。

──忙しいね。海老蔵さんが目指す理想の歌舞伎俳優とは?

歌舞伎は伝統をひたすら伝えていくだけだと思っている人が多いけど、そうじゃない。歌舞伎とは、つねに変化していく演劇です。語源である「かぶく」という言葉が表すとおり。伝統文化を継承しつつ、情熱を持って新しい歌舞伎を構築し続けることが僕のミッションだと思っています。

僕が目指すのは、「傾く」=市川海老蔵、という存在になること。今の歌舞伎俳優の中で、「傾く」にいちばん近い状況にいるのが十一代目市川海老蔵だと思うから、それを実現して後輩につなげたい。

──では、その理想に近づくために取り組んでいることは?

理想の根幹は「自分」。だから、自分自身をできる限りピュアな状態に持っていくこと。そうすると、自分にとって今何が必要かがパッとわかるし、必要な知識も情報も勝手に入ってくる。人間ってみんな受信機なんです。でも、その受信する力を弱らせるのが現代の環境だし、固定的教育だと思うんだ。

──自分にとって何が理想か、わかっていない人が多いということ?

そう。「何事もない日常が幸せです」とか、本気で思っていないのに言う人が多いでしょ。かと思えば、「お金はこのくらいほしい」「SNSの発言はこのくらい注目されたい」とかさ。世間で言われている価値観や幸せの尺度に自分を当てはめてるだけなんだよ。

本当は、理想も、その理想に近づくための環境も、全員違うはず。一人ひとりの才能に応じて、最適と思える環境とカリキュラムを与える教育を、日本もやるべきだと僕は思っています。

──海老蔵さんは自分の芸を磨くと同時に次世代に伝える立場にあるけれど、子どもたちに教えるとき、心がけていることは?

僕は、子どもは最強の敵と見ています。子どもは未知だから。たいていの人間には攻略法があって、僕は闘ったら勝つ自信がある。でも子どもはガラクタみたいな固定観念のないピュアな状態だから無敵です。何をしでかすかわからない天才たちなんですよ。

しかも、自分の子には責任がある。いわば中長期の投資です。1億円の資産を5000万円にしちゃったら悲しいでしょう。それと同じで、子どもたちの資質はできるだけ伸ばして成功させてあげたい。「この子にはどんな言い方が向いてるかな」と考えながら教えています。

でも、子どものことは本当にわからない。これは、僕自身が相当頑張らないと育てられないと思いました。

──子どもたちのギフトを削ることなく、伸ばしてあげるためには?

暗中模索(笑)。ただ、大事なのは、子どもがすることをちゃんと見てあげること。いいことをしたら「いいよ」「こうするともっといいよ」としっかり言ってあげる。どうでもいいことをやっているときは、見ない。そうすると、「パパが見ないってことは、これはダメなんだな」と自分で気づくから。

──では、叱ることはしない?

ほぼ叱りません。ゲームをしすぎても、家中散らかしてもおおいにけっこう。ただし、人を傷つけることだけは絶対にダメ。人の体や心を傷つけるようなことをしたら、ものすごく怖い「叱る」パフォーマンスをします。理詰めと大声で雷を落として、もう生きていけないってくらい(笑)。

──お父様の十二代目市川團十郎さんは厳しかった?

いや、のびのび育ててくれたよ。