中国には至る所に監視カメラがある。AIを駆使した最新のシステムで信号無視すら見逃さない。中国で特派員を務めた毎日新聞記者の赤間清広さんは「最先端の監視カメラで交通マナーは劇的に改善した。しかし、その解決法はあまりに過激だ。治安維持の名目で、人々のプライバシーが丸裸にされている」という――。

※本稿は、赤間清広『中国 異形のハイテク国家』(毎日新聞出版)の一部を再編集したものです。

繁華街のモニターにさらされた友人の顔写真

中国国内で稼働している監視カメラは2億台を優に超える。

交差点の歩道側に設置された「交通違反者暴露台」
交差点の歩道側に設置された「交通違反者暴露台」(筆者撮影)

国内の治安維持に何よりも重きを置く中国当局にとって、秘密兵器とも言える存在だ。しかし、監視カメラでどのような情報が集められ、どう活用されているのかはなかなか見えてこない。

取材を続けていた2019年秋、面白い話を耳にした。情報をくれたのは上海の西約120キロに位置する江蘇省無錫に住む女子大学生(22)だ。

市内にある大学での授業を終え、家に帰る途中、たまたま通りかかった繁華街に設置されたモニターに見覚えのある顔が大きく映し出されているのを目にしたという。

「普段からよく遊んでいる友人の顔写真でした。モニターを見た瞬間、『えっ、うそでしょ』と叫んでしまって」

すぐにスマートフォンでモニターの写真を撮り、その友人に送信すると「確かに私のようだ」という答えが返ってきた。

「友人は『何で私が』と怯えていました。私も同じように顔をさらされる可能性がある。他人事じゃない」

無錫で何かが起きている。すぐに現地に向かった。