「嗅いでみますか?」
職員に勧められた。
「任せたから、任せたから」
共著者であるにもかかわらず、西川さんが後ずさる。ジャーナリストとは思えない態度だ。しかたなく、ビーカーに鼻を近づける。
カビのようなにおいに、ケミカルな刺激臭が混じっている。ちょっと目も刺激する。
下水道にはなんでも流れてくる……
前述のプロセスのとおり、水再生センターに届いた下水は、まず「最初沈殿池」に流れ、固形物を沈殿させる。そののち、「反応タンク」に移されて微生物による有機物の除去を行う。クマムシやらミドリムシという微生物が下水中の有機物を分解するのである。DVDでは微生物が有機物を食べている顕微鏡映像もあった。
その反応タンクの液体が2番目のビーカーに収められていた。しばらくすると、ビーカー(同右下)の下半分に褐色のどろんとした綿菓子のようなものが漂ってくる。上半分はやや透き通っている。
「この茶色いものが微生物の塊です」
またもや職員が白い棒で勢いよくかき混ぜて見せてくれる。ビーカーの中の液体が一様に茶褐色になる。
その後、屋外へ出て、沈砂池、最初沈殿池、反応タンク、最終沈殿池と見てまわった。とにかく広大だ。てくてくと歩きまわり、会話を交わした。
「下水にはいろんなものが混じっているんでしょうねえ」
歩きながら訊ねる。
「それはもう、たくさん」
「コンドームなんかも流れてくるんでしょうねえ」
「生理用品やパンツ、パンストなんかも流れてきます」
下水道にはなんでも流れてくるらしい。
反応タンクまで来ると、金属製のブルーのカバーを少しだけ開けて見せてくれた。空気が送り込まれてブクブクと泡立っている。ここで微生物が汚水に含まれる有機物を分解しているのだ。絶対に落ちたくない。
浄化システムを進むと、水が澄んでいくのがわかる。
きれいになった水は横浜の海に勢いよく放流されていた。
下水は温かいので、放流するエリアの海の水温が高くなる。そのためにクロダイやスズキが集まってくるそうだ。その魚を目当てに海鳥たちも集まってくる。