父親に「女の影」が…

藤原さんは、育児と父親の介護を同時に行うには別居では不安があったため、夫に父親との同居を相談する。夫は事情が事情なだけに、しぶしぶといった様子で承諾。2019年の春に夫婦で実家へ移り、6月に出産を終えた藤原さんは、実家で子育てを開始した。同居も孫の誕生も、父親はとても喜んでくれた。

ところが2020年に入り、新型コロナ感染症が流行。4月に緊急事態宣言が発出されてからしばらく経った初夏、息子がようやく1歳になった頃、父親の言動や金銭管理におかしいところが出てきた。

藤原さんが育児の傍ら、何度も問い詰めると、ぽつりぽつりと答える父親。その話を総合すると、どうやら数年前、50代半ば頃から交際している若い女性がおり、現在も関係が続いていることが分かる。

母親の死後、そうした話がなかった堅物の父がなぜ……。藤原さんが「もしかして騙されているんじゃない?」と言うと、父親は「あの子はそんな子じゃない!」と烈火のごとく怒り出し、話にならない。

困り果てて夫に相談すると、「悪いけどいい年して、その入れ込み方はちょっと……。その女性に介護やってもらえば? もう同居やめて引っ越そうよ」と嫌悪感を隠さない。

父親が女性に30万円を何度か渡していたことが発覚

そんなある日、父親の携帯に残っていたメールから、父親が女性に30万円を何度か渡していたことが発覚。藤原さんはその時の衝撃をこう話す。

「相手からのメールには、『飼い犬が病気だから』とか、『足の親指の爪が剥がれて全治2カ月で働けない』とか、『実家が大変だ』『コロナで仕事がなくなった』とかあったのですが、女性は認知症の父からお金をもらうことにまったく罪悪感を抱かなかったようです。人間性を疑いましたが、何より父が別人になったように思えてすごくショックでした」

一万円札を数える手元
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その後、ケアマネジャーが間に入り、父親から話を聞いてくれたところ、詳細な事情が見えてきた。女性は30代で、付き合いは藤原さんが27歳の頃、ちょうど結婚していったん実家を出た後に始まっていた。約7年前のことだ。

その頃、父親は若年性認知症の影響で仕事がうまくいかず、ストレスから風俗に通い始め、お気に入りの女性と個人的に付き合うようになり、食事代や旅行代などをすべて負担していた。その後、現金を不定期に女性に渡すようになり、コロナ禍にその金額が跳ね上がった。そのため藤原さんも「おかしいな」と気づいたという。

独身だから、父親が女性と交際してはいけないわけではない。だが、父親は認知症で、その世話を自分がしている。「お金の受け渡し」を前提とした交際が正しいはずがない。そう思って、藤原さんは縁を切って実家を出ていく覚悟を決め、父親に「私たちの父に戻ってほしい」と手紙を書いて渡した。

手紙を読んだ父親は、女性にお金を貢いできた事実を認めたが、貯金が、自分が把握している半額ほどしか残っていないことを知ると、「嘘だ! そんなはずない!」と驚いた。自分が女性をつなぎとめるために大金を費やしていたことに無自覚だったのだ。