削減量は「28年間でわずかマイナス2.8%」

図表2のグラフからわかる「不都合な事実」が二つあります。

一つは、1990年度から最新の確報値である2018年度の28年間で、温室効果ガスは12億7600万トンから12億4000万トンへと、「わずか2.8%しか減少していない」という事実です。

多くの読者の方は、「えっ? 2.8%しか削減できていなかったの?」と違和感を持たれたのではないでしょうか。

1990年から今日までの約30年間を振り返ってみてください。この30年間、日本人や日本企業が温室効果ガスを削減するための努力を何もしてこなかったのでしょうか?

いえ、もちろんそんなことはありません。

「省エネ・省電力」がこんなに進んだ日本が「なぜ?」

たとえば、1997年、トヨタからハイブリッド車の初代プリウスが発売され、その後、各自動車メーカーからさまざまな形式のハイブリッド車や低燃費車が市場投入されてきました。2002年には自動車税のグリーン化税制が始まり、燃費の良いエコカーの普及に弾みがつきました。

加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)
加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)

また、2009年には、余剰電力の固定価格買い取り制度(FIT制度)が始まって、屋根に太陽光電池パネルを据え付けた住宅、ビル、建物が増えていきました。同じころ、白熱電球の置き換えができるLEDが登場し、一般家庭でも普及が進んでいきました。もちろんそのほかの家電製品でも省エネ・省電力化が当たり前のように進んでいます。

企業も同様です。製造設備はもちろんのこと、オフィスや物流など、事業全体のさまざまな分野で省エネ・省電力の努力と工夫を重ねてきました。

しかし、そうした努力が進められたにもかかわらず、温室効果ガスの排出量はどうなったかというと、1990年比でわずか2.8%しか減っていないというのが厳然たる事実なのです。

これまでの延長線上で「90%以上の削減」は到底不可能

二つ目の「不都合な事実」は、一つ目の裏返しで、これから2050年までの間に残りの97.2%、吸収源活動分を考慮してもおそらく2018年度比で90%以上を削減しなくては「実質ゼロ」にならないという事実です。

これまで何の対策も行っていないならともかく、さまざまな削減努力を30年間近く行ってきても2.8%しか削減できていないのですから、これからの30年間で「温室効果ガスを実質ゼロにする」という目標がいかに高い目標か、同時に、今までの削減活動の延長線上では到底到達できそうにない目標であるか、を認識されたのではないでしょうか。

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