その年は100人近い学生を採用できて、日経ビジネスの就活満足度ランキングの説明会セミナー部門で1位、総合でも5位に入りました。他の上位は誰でも知っている有名企業の中、運送業界でランキングに入ったのは、我が社だけ。父も「すごいな」と評価してくれました。

(左)1998年、社内の褒賞旅行に参加したころ。ビールをついでいるのが、大阪支店長時代の寺田氏。(右)2019年、寺田運輸創業50周年記念と寺田氏自身の50歳の節目に、社員有志と富士登山をした。
(左)1998年、社内の褒賞旅行に参加したころ。ビールをついでいるのが、大阪支店長時代の寺田氏。(右)2019年、寺田運輸創業50周年記念と寺田氏自身の50歳の節目に、社員有志と富士登山をした。

1位へのこだわりは、私が社長になった後も引き継いでいます。いま我が社がこだわるのは件数ではなく顧客満足度です。件数を稼ぐだけなら右から左に「えいや」でやってしまえばいい。しかし私たちは引っ越しの品質を高めてお客様にご満足いただくことを目標にしています。

じつはオリコンの満足度調査で3年連続1位でしたが、年々期待値が上がっていることもあってか、今期は1位を逃しました。ふたたびトップを奪還できるよう、現在取り組んでいるところです。どうすればサービス品質が向上するのか。重要なのは、従業員の働きやすさだと思います。父や母は「現場を見ろ」と口酸っぱく言っていましたが、まさにその通りです。お客様に一番近いところにいるのは従業員ですから、彼らの声に耳を傾けなくてはいけません。

2017年に業界で初めて定休日を導入したのは、労働環境を改善するためです。このコロナ禍でも、現場の熱中症対策としてマスクフレームをいち早く開発しました。従業員を大切にすることで現場に活気や余裕が生まれて、お客様に質の高いサービスをご提供することにつながっていく。その考えのもと、さらに改善を重ねていくつもりです。

浜ちゃん総研所長の目

両親は、発想力に優れた起業家だ。引っ越しを始めたのは、運送事業の主要顧客が週休2日で、休日にトラックを有効活用できないかと考えたからだった。事業は急成長して両親は家を空ける時間が長かった。グレてもおかしくない環境だったが、「親の背中を見ていたら、悪さをする気になれなかった」と政登氏。

経済評論家 浜田敏彰氏
経済評論家 浜田敏彰氏

発想力も親の背中を見て受け継いでいる。営業推進部部長のころは、猫の手も借りたいハイシーズンに、営業メンバーを駆り出して採用活動に力を入れた。目先の人手不足より、長期的に人材確保することを優先した判断だった。この「急がば回れ」の発想は、生産性を高めるうえで経営者に欠かせないものだ。

同社は引っ越し件数より品質の高さを重視している。コロナ禍でも、新居の除菌やリモート見積もりを開始するなど、さっそく顧客のニーズに応えるサービスを開始した。ただ、品質改善以上に従業員が生き生きと働ける環境を整えることが高品質なサービスにつながると考えて、作業中の熱中症対策になるマスクフレームを開発した。顧客のためにこそ、従業員を大事にする。この姿勢は他の企業にも参考になるのではないだろうか。

(構成=村上 敬 撮影=熊谷武二)
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