森林を対象としたクレジット制度
一方、国内林業は長年低迷を続け、国内木材価格は数十年前の7分の1~5分の1という苦境に喘いでいる。林業は、後継者問題どころか現業3割が高齢化を迎えつつあるという問題も抱えている。立木を間伐して製材から流通に乗せるためのコストも捻出できず、もはや産業として身動きができない状態だ。
前出の海水淡水化センターの上部団体である、福岡地区水道企業団の柴原斉企業長がいう。
「水源開発の時代は終わりました。今後の課題は森林保全です。そのための資金提供も含めて、我々ができることに取り組んでいく時代に入ったと思います」
出口を失った林業関係者だけでは、「機能する森林」を増やす見通しは立たない。しかもこの不況下だ。日本が認められた吸収源の比率を極力維持するためには、間伐などによる整備で森を手入れする「力と財」を山の外から持ち込まざるをえない。負担規模が大きい削減率を達成するには、高効率に目標達成できる仕組みが必要だ。
現在、国内有数の大手企業各社が森林に向かっている。かつての「山持ち」は大手企業による買収攻勢で次々と山を手放し、森林地図は大きく塗り替えられた。大手商社も投資拡大中で、森林は今や環境ビジネス・ニューチャネルの裏舞台となっている。狙いはその先にある、食やバイオマスといった巨大な新規事業の土俵づくりだ。
こうした諸々の背景から新たに登場したのが、森林を対象とした「J-VER」(Verified Emi-ssion Reduction/オフセット・クレジット)制度である。
このクレジットは、海外プロジェクトの京都メカニズムクレジットではなく、国内プロジェクトのクレジット。カーボン・オフセット制度を、ある意味で補完するための国内相殺用である。例えば、削減を必要とする企業がその枠を確保するために公有林を整備すれば、地方自治体との間で削減分をオフセットすることができる(図1参照)。
このJ-VER制度に申請し、この9月半ば現在、「認証待ち」の状態にあるのが、中国が水狙いで山林を買い漁っているとされた三重県大台町の「宮川流域における持続可能な森林管理プロジェクト」だ。オフセットを求める側も応じる側も、各々の事情でコトを進めているのだ。
そうすると、中国の「赤い貴族」たちにとっても、日本の森林は重層的な意味を持つ投資の目玉だ。J-VER制度が拡大すれば、その分のジャパン・マネーが中国における排出量取引投資から日本国内へと還流する。
不動産業者A氏はこういう。
「5~6人がクルーザーで度々訪れます。中国側のエージェントの素性が我々にはよく見えないのですが、どうも向こうのお役人さんが多いらしくて」
少数で来日し、投資案件と接触するこうしたグループは「投資団」と呼ばれている。在京の投資顧問会社との接触も頻繁で、米系国際金融資本との協議案件も少なくないという。
「水の時代」は現実だが、誤ったイメージで事態を錯覚すると戦略を誤る。政治も行政も企業も大手メディアも、いま一度目を見開き、冷静に情況を把握し直す必要がある。