ファーウェイへの出荷を止めたソニー

そうした状況の変化は、わが国企業に大きな影響を与える。キオクシア(旧東芝メモリ)の上場延期に加え、スマートフォンなどに欠かせない画像処理センサー(CMOSイメージセンサー)市場で50%超のシェアを持つソニーは、米国の制裁に応じてファーウェイへの出荷を止めた。いずれも収益や事業継続にはマイナスだ。

わが国には米中の有力ITプラットフォーマーに匹敵する企業が見当たらない。また、コロナショックの発生を境に、わが国では中国などからのインバウンド需要が消滅した。飲食、宿泊、陸運(バスや旅客鉄道)、航空、百貨店などの業況は厳しい。

ワクチンの使用が可能になったとしても、そうした需要がコロナショック以前の水準を回復するかは不透明だ。経済面での対中依存の限界への懸念など、わが国経済の先行き不安が高まるのは無理もない。

共産党政権のHVシフトが日本の追い風に

一方、貿易統計などの経済データを見ると、半導体製造装置などの分野でわが国企業が強さを発揮していることがわかる。その意味では、世界経済の環境変化の加速は、わが国企業がより高い成長を目指すチャンスでもある。

財務省が発表した4~9月期の貿易統計(速報ベース)はわが国の製造技術の高さを確認する良いデータだ。同期間、36の国と地域の輸出先のうち中国と台湾、およびスイスへの輸出額が増加した。重要なのが中国と台湾への輸出増加だ。

9月15日の米国による制裁発動を控え、中国のファーウェイは半導体在庫を台湾などからかき集めた。また、中国のSMICは半導体製造能力の強化のために、わが国の半導体製造装置の購入を増やしたようだ。中国の需要に対応するために、台湾もわが国の半導体等製造装置などを買い求めたとみられる。

端的に言えば、経済のデジタル化を推進する中国と、世界の半導体供給基地として存在感を発揮する台湾(特に、半導体受託製造大手のTSMC)にとって、わが国企業の半導体製造装置などの技術力は欠かせない。それに加えて、コロナショックによる戸建て住宅需要の高まりによる塩化ビニール樹脂や半導体用のシリコンウエハーへの需要に支えられて、高純度素材分野でもわが国企業は競争力を発揮している。

また、世界の自動車産業でもわが国企業が強さを発揮している。9月まで6カ月続けて中国の新車販売台数は前年同月の実績を上回った。同じ期間、トヨタ自動車はレクサスの人気上昇などによって中国での売り上げを伸ばした。その状況は、エンジンの欠陥などから中国のシェアを落とした韓国の現代自動車と対照的だ。中国は環境対策面で国際社会を主導したい。

電気自動車に充電
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そのために、共産党政権がEV(電気自動車)に加え、HV(ハイブリッド自動車)を重視し始めたこともわが国自動車メーカーの追い風だ。以上より、データを確認するとコロナショックと米中対立の先鋭化は、わが国企業が競争力を発揮する機会になっている。変化がもたらす影響には、プラスと、マイナスの両面がある。その点を常に念頭に置くことが大切だ。