米中対立に振り回されるだけでは終われない
新型コロナウイルスの感染拡大の第2波などもあり、世界経済は依然として先行き不透明な状況が続いている。それに加えて、米中対立の激化の悪影響もある。わが国企業を取り巻く経済環境と国際情勢は目まぐるしく変化している。
そうした状況を見ると、わが国企業が中国に依存して成長を目指すことは難しくなりつつある。米国政府によるファーウェイや、中芯国際集成電路製造(SMIC)への制裁などがわが国企業の収益獲得と事業運営に与える影響は軽視できない。また、わが国が輸入に頼るレアアース(希土類)などに関しても、中国が米国に対抗して輸出管理を厳格化する可能性がある。そうした変化の、負の影響は過小評価できない。
しかし、足元の貿易など経済データを見ると、わが国企業が中国などから必要とされていることがわかる。コロナショックや米中対立などをピンチではなく、むしろシェア拡大のチャンスととらえ、設備投資の積み増しに動く企業もある。
そうした考えを成果につなげるために、わが国企業は変化に能動的に対応し、自社の強みの強化と発揮を目指すことがより重要になる。
コロナショックで加速した“デジタル人民元”の導入
世界経済の今後の展開を考える上で重要な点は、コロナショックの発生と米中対立の激化などによって、変化のスピードがこれまで以上に早まっていることだ。顕著な変化の一例として、新型コロナウイルスの感染発生によって、有力なITプラットフォーマーが社会と経済に与える影響の大きさが明らかになった。
中国や欧米諸国ではコロナショックを境に、経済のデジタル化が勢いづいた。中国人民銀行(中央銀行)は“デジタル人民元”の実証実験を重ね利便性と透明性の高い通貨体制を目指している。オンライン教育や診療、新薬開発などでも中国はデジタル技術を積極的に取り入れている。ソフトウェア開発を中心に、中国経済における「DX(デジタルトランスフォーメーション)」には他の主要国以上の勢いを感じる。
その結果、コロナショックを境に、IT先端分野などでの米中対立は激化している。世界の政治、経済、安全保障の基軸国家(リーダー)である米国は、IT分野での中国企業の台頭を食い止めなければならず、ファーウェイへの制裁発動などに踏み切った。中国共産党政権は米国に対抗して輸出管理法を成立させた。当面、対立は先鋭化するだろう。