「老後2000万円問題」についての私見

さてここで、「老後2000万円問題」について、私なりの考えを少し披露させていただきたいと思います。

私は、いわゆる御用学者ではないので、この問題に対して火消し役的な意見を述べるつもりはありませんし、また、火に油を注ぐつもりもないです。ただ、この問題も、やはり「本質」をとらえなければならないと思うのです。

「老後に1300万円~2000万円が必要だ」とした「報告書」はあくまでも、現在における「老後の収入」の「平均値(約21万円)」と「老後の支出」の「平均値(約26万円)」から「収支差額」を示したに過ぎないのです。

それが月額およそ5万円のマイナスで、30年で計算するとおよそ2000万円になると述べているだけなのです。このことは前にも述べました。

そして、このことが示しているのは、本質的には「現在のところ、平均的な日本人は、老後に毎月およそ5万円の貯金を取り崩しながら生活することができている」という事実です。「報告書」はそのことを示したに過ぎないのです。

「現在のところ、平均的な日本人は、平均的にいって、月額およそ5万円のマイナスに耐えられていますよ」ということですね。

各世帯の貯蓄総額は2000万円とは限らず、もっと多いかもしれないし、少ないかもしれないのです。ただ、「毎月5万円の貯金を取り崩しながら生活している」という実態を浮き彫りにしたというだけなのです。

そして、もし毎月の収入額が将来的に下がるのではないかという不安があるのであれば、それを見越して多めに貯金をしましょうねという、「当たり前のこと」を確認できたというだけのことなのです。

この「報告書」から読み取れることは、本質的には、こういった「当たり前のこと」だけです。大騒ぎするようなことでしょうか。

そもそも、こんなことは「何をいまさら」という話でしかないです

しかも、この「老後に、いくら貯蓄が必要か?」という議論は、マネー雑誌や週刊誌等でさんざん取り上げられてきています。私もその多くに目を通してきていますが、最小は「ゼロでいい」という説もありますし、最大では「1億円は必要!」という扇動的なものも目にします(なお、この「1億円必要」という説は、支出総額だけを取り上げていて、年金収入や労働収入を無視した不適切なものです)。

榊原正幸『現役大学教授が教える「お金の増やし方」の教科書』(PHP研究所)
榊原正幸『現役大学教授が教える「お金の増やし方」の教科書』(PHP研究所)

これらの「0円~1億円」という大きな幅のある諸説を私なりに吟味して総括した結果、私は結論的に「60歳時に、ローンを返済済みの家と、夫婦で金融資産3000万円を持っていて、65歳まで働いて、65歳時から毎月20万円くらいの年金収入があれば概ね大丈夫」といったところが終着点だと考えています。

こういった私の肌感覚からすれば、今回の報告書が「夫が65歳時に、2000万円」としているのは、だいぶお手柔らかなほうだと思います。「ローンを返済済みの家」については触れていませんし。

「報告書」でも「1.現状整理」の「(3)金融資産の保有状況」で、「支出については、特別な支出(例えば老人ホームなどの介護費用や住宅リフォーム費用など)を含んでいないことに留意が必要である」と述べています。ほら、やっぱり2000万円では足りないじゃないですか。余裕を見て、少なくとも3000万円は必要ですね。

それに、「ローンを返済済みの家」も必要です。「報告書」に記載された「実支出」の中には「住居費」は月額で1万3656円しか計上されていないのです。これでは家賃支払いにはほど遠い金額であり、修繕積立とか固定資産税分くらいにしかなりません。

また、老人ホームやサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に移り住む場合は、その費用は「ローンを返済済みの家」を売却することで調達できそうです。