欧米流合理システムと日本流現場力
上海でP&Gは成功している。
「新たな商品を展開するときなど、初期に投資できる資金は大きく、P&Gは流通を巻き込んで最初から思い切って勝負をしてくる。逆に、日本であれだけ強い花王は上海では、戦略が中途半端でうまくいってない」(上海に進出する日系食品メーカーの現地法人首脳)
中国の流通は、量販やコンビニにはアメリカと同様に卸が介在しない。その代わり新たな商品をメーカーが流そうとする場合、「入場費(ルーチャンフェイ)」と呼ばれる一種の登録料が必要となる。
「日本の大手流通でも、同様な商品コードの登録料はあるが、上海の場合は比べられないくらい高額。さらには、入場費とは別に“棚代”まで要求されるため、初期費用はバカにならない。カルフールやローソンなど、いずれもこうした構造。日用品や食品などの日本メーカーは本社に決裁を仰ぐものの、本社から拒否されるなど、二の足を踏むケースが多い。この点、P&Gには逡巡がない。もともとP&Gはアメリカで、ウォルマートと製販同盟を結んで成功を収めた。流通を巻き込むという思想があり、この成功モデルが、巨大市場の中国で成功している要因」(同)と説明する。
キリンビールは、勝ち組の資生堂と組んで「ビールを売らずにビールを売る、“価値営業”を展開してます」と島田明人・麒麟(中国)投資有限公司副総経理。キリンの現地人営業マン(主に女性)は、市内の飲食店を回りウエートレスの女性たちに資生堂の化粧品を使いメーキャップ研修会を開いているのだ。ウエートレスたちはみな、農村部の出身者で本格的なメーキャップ経験などはない。彼女たちの“口コミ”により資生堂製品とキリンの評判は上がった。この取り組みは、実験的に1年前から始めたが、この間にキリンの取扱店は100店舗増え150店を超えたそうだ。
豊富な資金を背景に流通の仕組みに乗って、短期間に高いポジションを確保するP&Gなどの欧米企業。片や、現場の知恵で勝負する資生堂やキリンなどの日系企業。欧米的な合理システム対日本的な現場力の攻防は、巨大市場でも繰り広げられている。