短期の緊急事態宣言しか想定していなかった特措法

今回、感染症対応の法的基盤となった新型インフルエンザ等対策特別措置法の建て付けも、本格的なパンデミックへの備えとして十分かは、慎重に検証する必要があります。

長期間にわたる外出自粛や休業要請により企業や家計への負担が蓄積する中、強制力や補償措置を伴わない現在の法的枠組みだけで次の流行に対応できる保証はありません。内閣官房幹部も「背に腹は代えられない状況になったら、次はもう効かないだろう」と、これまでのソフトロックダウン手法の限界を認めます。

もともと2012年の通常国会において新型インフルエンザ等対策特別措置法が法案審議された際にも、罰則や休業先への補償の要否に関する議論はありました。

当時、要請や指示を受けた者がこれに従わない場合の罰則の定めがない理由について問われた中川正春内閣府特命担当相は、「公表を通じて利用者の合理的な行動が確保されるということを考え方の基本にしております」と答弁し、国民が要請や指示に応じない事態は基本的に想定していないことを明らかにしました。

また、施設使用制限の対象となった事業者に対して補償が必要ではないかとの問いに対しては、「使用の制限等に関する措置については、事業活動に内在する社会的制約であると考えられることから、公的な補償は考えておりません」と答弁しています。

感染流行の長期継続は「想定外」

今回、緊急事態下における政府の広範な裁量による私権制限については、野党や日弁連などから強い警戒感が示されていたこともあり、政府は私権制限を必要最小限の範囲にとどめることを繰り返し強調しました。

しかし、法案制定当時の整理では施設使用制限等の措置はあくまで一時的なものであり、「その期間も1週間から2週間程度に限定されたもの」と想定されていたことには注意が必要です。

国会審議を見る限り、今回の新型コロナウイルスのように緊急事態宣言が長期にわたり、また、感染流行の波が繰り返し押し寄せるような事態は想定外であったと言わざるを得ません。