不祥事を起こした芸能人にネット上で「謝罪しろ」と怒る人たちがいる。なぜそこまで怒るのか。早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「クレーマーはネット上で他人の誹謗中傷をすることで承認欲求を満たそうとしている。これはSNSで『いいね』を欲しがる人と同じだ」という――。

※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです。

パソコンでSNSにヘイトスピーチを入力している
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店員さんや芸能人を「謝罪させたい」人々の生態

公的機関や企業がすぐ謝るので、それもクレーマーの成功体験となり、最近は相手に謝らせることが目的化してきたような気がするね。ただ、クレーマー側も相手の社会的立場やキャラクターを見ていて、それによって文句を言う相手を選んでいるところがある。

たとえば、スーパーやコンビニの店員は弱い立場の人の典型で、ストレス発散なのか知らないけれど、クレーマーたちは彼らにしょっちゅう理不尽なクレームをつけている。しかし、そうしたおかしな客に店員が「二度と来るな」とブチ切れることほとんどない。

とくに大型店舗の店員は、何を言われても自分自身がクレームをつけられているわけじゃないので、ペコペコ謝ってその場をやり過ごそうとする。そうやってすぐ謝ると、クレーマーに付け込まれやすくなり、さらにクレームが増えていく悪循環に陥る。

芸能人のような人気商売をしている人もクレームに弱い。イメージが自分の収入に直結しているから、不倫とかのネガティブな印象がついてしまうと困る。CM1本で2000万円とか3000万円とか稼いでいる人なんて、対応を誤ってCMを降ろされたりしたら収入が激減して大変だよ。だから、それが理不尽なクレームやバッシングだとしても適当なところで謝罪したほうが得という判断になる。

イメージが重要な芸能人はクレーマーの対象になりやすい

芸能人がちょっと何かやらかすとみんなでバッシングし、CM出演している企業にクレームの電話をしたりするのは、謝ってくれそうだからだ。謝罪会見させて「ざまあみろ」と思いたいんだろうね。

ほとんどの芸能人はタレント事務所に所属しているから、ちょっと売れているレベルの人は会社の意向にも従わなくちゃいけない。結婚だって自分の意志では決められないし、しがらみだらけで奴隷みたいになっている人もいると思う。タレントイメージも事務所によってつくられ、「あなたは世間で清純派と思われているから、スキャンダルを起こすとオファーがなくなる。プライベートでも清純派として振る舞ってくれ」なんて言われると、なるべく自分でもそのイメージからはみ出さないようにするよね。

そうすると、何が「自分のやりたいこと」なのかもわからなくなり、四六時中ずっと演技させられている状態になる。つらいと思うよ。たまにすごく人気のある芸能人が突然理由もなく引退することがあるけれど、芸能人としての稼ぎを貯蓄していて、その金である程度生活していくことができるなら、もう無理して世間に顔をさらして生きていく必要はない。引退して好きなことだけやっていけばいいと悟ったんだろう。

こういったタレントイメージでがんじがらめになっている芸能人もクレーマーの対象になりやすいと思う。だから、頭にきて謝罪会見しないでそのまま引退してしまう芸能人もいる。

逆に社会的立場がない人、イメージを気にする必要のない人は、クレーマーにゴチャゴチャ言われても、それで仕事が減るわけではないので「うるせえ」って返すことができる。