中銀が大統領に「隷属」するアブノーマルな状況

中銀の責務は一般的に物価と金融の安定を図ることにあり、そのためには政府からある程度の距離を置くことが望ましい。コロナ禍に伴う景気の腰折れを受けて政府と中銀の距離が世界的に縮まったが、先進国の通貨はさておき、新興国の通貨の場合、やはりそうした財政と金融の過剰な接近は通貨安を招きがちである。

トルコの場合、絶対的な権力者であるエルドアン大統領が強い利下げ志向を持っている。利下げを進めれば物価が落ち着くという主張を繰り返す大統領に、中銀は配慮せざるを得ない。とはいえ、利下げをすれば物価の上昇は加速するし、リラ安も進む。そうした状態を放置すれば、トルコ経済はオーバーヒートを起こす。

そのため中銀は、このところ利上げ以外の方法で金融引き締めを行おうと腐心している。例えば銀行の貸出金利を政策金利よりも低く定めることを止めたり、預金準備率を引き上げたりといった手段だ。とはいえこうした小手先の手段では限界があり、望まれる対応はインフレ率よりも低位に定められた政策金利の引き下げに他ならない。

そうであるにもかかわらず、8月のMPCでも中銀は利上げを見送り、リラ安圧力に対して為替介入で抵抗するスタンスを維持した。結局のところ、中銀は事態の先送りに終始したことになる。事実上、中銀が大統領に「隷属」しているというトルコのアブノーマルな状況が改めて明らかになったとも言えるだろう。

強権的な大統領が率いるが好対照なロシアの通貨政策

ところで、通貨(金融)政策でトルコと好対照な国としてロシアがある。ロシアもまた、コロナ禍で通貨安が進んだ新興国の1つだ。ある意味ではトルコのエルドアン大統領以上に権威主義的な性格を持つロシアのプーチン大統領だが、金融政策に関しては無干渉、中銀は市場メカニズムに応じた運営が可能となっている。

例えばロシア中銀は7月に利下げを行ったが、その幅はわずか0.25%に過ぎなかった。インフレ率(最新7月の消費者物価は前年比3.4%上昇)と政策金利(4.25%)が近づいてきたことがその主な背景である。実質的なマイナス金利政策を採用しているトルコ中銀とは、まさに対極的な政策方針と言えるだろう。

ロシアは為替介入にも消極的だ。経常黒字国であり、原油という武器を持っているという点で、ロシアはトルコと異なり通貨安の恩恵をある程度は受けることができる。とはいえ、極端な下落はロシア経済にとってもマイナスだ。そのことを知っているロシア中銀は、通貨安を招く実質マイナス金利の採用には慎重を貫いている。

自然体で下落するルーブルと、介入に次ぐ介入でも下落に歯止めがきかないリラでは事情が大きく異なる。投資家のリスクセンチメントが改善したとき、政策運営の透明性が高いロシアの方が通貨の持ち直しが早いはずだ。同様に強権的な大統領が率いる両国であるが、通貨政策のあり方はまさに対極的と言える。