文政権は長期のグランドデザインを示せ

見方を変えると、韓国にはサムスン電子の半導体事業に代わる新しい成長産業が見当たらない。それは、韓国経済が抱える深刻な構造的問題の1つだ。

現在、韓国は対中半導体輸出を見直すよう米国から圧力をかけられている。サムスン電子の半導体事業によって韓国が景気安定を目指すことは一段と難しくなるだろう。新型コロナウイルスによって世界経済が低迷する可能性は高い。

いつ、効果のあるワクチンが開発され、世界への供給体制が確立されるかにもよるが、輸出依存度の高い韓国経済の下方リスクは軽視できない。金融政策も限界を迎えている。

成長産業が見当たらない状況下、文大統領は構造改革に真剣に取り組む必要がある。冷静に考えると、文政権はどのようにして経済の実力を高め、国民が安心できる環境を目指すか、長期のグランドデザインを示さなければならない。

具体的には、どの産業を育成して雇用を増やすか。そのために人々にどのような教育・訓練を提供するかなど、具体的な施策を明示し、推進することが求められる。多様な利害を調整して国を1つにまとめることが政治の役割だ。

しかし、文氏の経済対策からはそうした理念や熱意が感じられない。7月14日、文大統領は今後5年間で114兆ウォン(約10兆円、韓国の名目GDPの約5.8%)の政府予算をつぎ込み、デジタル化推進のための投資や雇用対策を強化すると主張した。それを文氏は“韓国版ニューディール政策”と呼ぶ。

その政策の実体は、政府資金のつぎ込みによって非正規雇用の正規雇用への転用を進めることなどにある。そう考える理由の1つは、どのように財政資金が新産業の育成に使われるか、説得力ある具体策(改革の中身)が乏しいからだ。

労働組合などを支持基盤とする文氏は、構造改革に真剣に取り組むことが難しい。文政権の経済運営は既得権を持つ人の富を増やす可能性はある。しかし、その発想で韓国が産業競争力を高め、変化に対応する力をつけることは困難だろう。

“欧州の病人”の構造改革に倣えるか

文政権下、学生や失業者など経済的な弱者が将来に希望を持つことは一段と難しくなる恐れがある。その結果、若年層を中心に韓国の所得・雇用環境は悪化し、文政権への批判が高まる展開が想定される。

そうした展開が予想される中、文氏が政府の支出を増やして目先の景気安定を目指し、経済格差の深刻化などを糊塗しようとする可能性は高まっているとみるべきだ。

重要なことは、政府が財政政策を用いて経済の実力向上を目指すためには、構造改革が欠かせないことだ。それを確認する良い材料が1990年代のドイツだ。東西統一後のドイツは経済の低迷にあえぎ、一時は“欧州の病人”とまで揶揄された。

そうした状況を大きく変えたのが、1998年から2005年までドイツの首相を務めたゲアハルト・シュレーダー氏による労働市場改革だった。その要点は、人々の働く意欲を高めたことだ。

シュレーダー政権は、労働市場と社会保障の制度改革を一体で進めた。政府は職業の訓練と紹介制度を強化し、職業紹介を受けた失業者が就業を拒んだ場合には失業保険の給付を減らした。起業や研究開発の支援も強化され、人々が自律的に就業を目指す環境が整備された。

そうした改革が財政健全化と自動車などの産業競争力の向上を支えたのだ。