昨年のリーマン・ショック以降、世界経済は「100年に一度」の危機に直面している。金融担当大臣として不良債権処理にあたった竹中平蔵教授に混迷する経済再生の処方箋を聞く。
「サブプライ問題」はなぜ起こったのか
サブプライム問題が起きた瞬間、私は日本が10年前に経験した、金融危機とは違うと思いました。
昨年10月、米連邦準備制度理事会(FRB)議長のバーナンキに会いました。実は、金融担当大臣で不良債権処理をやっているとき、バーナンキはプリンストン大学教授だった。彼は「おまえのやっていることは間違っていない。頑張れ」と励ましてくれました。今度は私が彼を励まさなければならないと思い、ワシントンに行きました。彼はもの凄い緊張感の中で、仕事をしていました。
バーナンキは私と同じことを言いました。「日本はバンキング・クライシスだった。米国はマネーマーケット・クライシスだ」と。日本は銀行が貸し出しをして、それが不良債権になった。銀行の危機です。米国は違いました。銀行は貸し付けをしましたが、それを証券化してほかのところに売りました。マネーマーケット、つまり証券化されて売り買いされているところが問題化した。その時点で銀行のバランスシートはリスクから切り離されている。それをうまく収めさえすれば、日本のような危機にならないで済むはずでした。
しかし、そうはなりませんでした。最大のポイントは昨年9月29日、下院が公的資金投入案を否決してしまった。市場の失敗に、今度は政府の失敗が重なりました。これで米国政府は事態をコントロールすることができなくなりました。マネーマーケット・クライシスはコンフィデンス・クライシス(信任の危機)に変わった。こうなると、やることは一つしかありません。政府が反省して、政府と中央銀行がなりふりかまわず、それをコントロールするしかないんです。
米国政府は一瞬躊躇しました。実は、それを強引に進めたのはイギリスなどヨーロッパの国でした。ヨーロッパの国は資本注入することを宣言して、そのうえで預金保護すると発表。そうした状況を受けて、翌週、ブッシュも公的資金注入を宣言しました。その瞬間、コンフィデンス・クライシスは半分くらい収まった。
しかし、第二の波がやってきた。当然、予測されたことですが、マクロ経済がいよいよ悪くなってきて、世界同時不況が起こり始めたのです。