危機克服のため日本が打つべき政策は何か

<strong>竹中平蔵</strong>●慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所所長。1951年生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行、慶應義塾大学総合学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。02年金融担当大臣、04年郵政民営化担当大臣を兼務。05年総務大臣。04年には参議院議員当選。近著に『竹中式マトリクス勉強法』がある。
竹中平蔵●慶應義塾大学教授、グローバルセキュリティ研究所所長。1951年生まれ。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行、慶應義塾大学総合学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣。02年金融担当大臣、04年郵政民営化担当大臣を兼務。05年総務大臣。04年には参議院議員当選。近著に『竹中式マトリクス勉強法』がある。

世の中には競争原理や市場経済が大嫌いな人がたくさんいます。金融危機が発生した当初は、そういう人たちが「米国型の資本主義が崩壊した」と小躍りしたものですが、実際には社会民主主義的な欧州の資本主義も総崩れになっています。実体経済の悪化ということでは欧州のほうがより深刻です。むろん日本経済も打撃を受けました。

各国政府は事情に合わせてそれぞれの政策を打ち出していますが、実物経済が悪化しているので結局は似通った政策を採ることになります。その際に、私が政策論の観点から関心を持っているのは「それは協調なのか、競争なのか」ということです。

必要な政策を「みんなで一緒にやりましょう」と、参加各国の合意のもとで行うのが国際協調です。うるわしい話ですが、ほんとうに「みんなで一緒に」やることができるのでしょうか。

それよりも、一国が衆に先駆けて効果的な政策を打ち出し、それを見た他国が必然的に政策の後追いをさせられる。そういう国際競争のほうが実際的ではないかと思います。

現に金融機関への公的資金投入に関しては、08年10月のG7財務相・中央銀行総裁会議では何も決められなかったのに、その後、欧州の数カ国が公的資金注入を始めると、あわてて米国も追随することになりました。

日本人は歴史的に「国際協調」という美名に惑わされがちですが、現実に起きていることは競争です。だとすれば、日本も世界に先駆けて効果的な政策を打ち出せばいいのです。よい例が「時価会計の堅持」です。

株価の急落を受けて、米欧の金融当局が苦し紛れに銀行の時価会計制度を緩めようとしています。もし時価会計を凍結したらどうなるか。銀行のバランスシートがますます不透明になり、疑心暗鬼を生じるだけなので絶対にやるべきではありません。

ここで日本が「時価会計を堅持します」と表明すれば、日本の市場は信頼できるというメッセージになります。世界中からマネーが集まるでしょう。

ところが日本は国際協調の名のもとに、時価会計の緩和に動いています。日本の金融機関は欧米勢ほどにはバランスシートが傷んでいませんから、相対的に有利なはずです。そこを読み違えてはいけないと思います。