睡眠時間90分サイクルは実は非効率

21世紀は「生体リズムの時代」と言われますが、より短い時間で高い成果を出すのが今の時代では求められています。意図的に就寝を遅らせて大脳を眠気に慣れさせていけば、睡眠時間は短くて済むようになり、活動時間を伸ばすことはできます。この考え方から睡眠時間を短くすることを目指す人もいるのですが、その場合、先ほどお話しした、大脳が再び眠気を感知できるようにする術も同時に身につけるようにしていただいています。

私たちは、睡眠中に意識がないので、眠っている間は脳がどのようなことをしているのか自覚することは難しいのです。そのため、睡眠に対して睡眠中に脳が行った作業の成果を評価するより、一律に時間数だけで評価してしまうことが多いのです。

睡眠時間を評価するときによく用いられるのが、90分リズムです。睡眠には、90分の周期があり、そのサイクルが終わる時間帯に目覚めれば、目覚めがスッキリするという考え方です。

90分サイクルが3回確保できる4時間半睡眠をやるために、6時起床だから1時30分に眠る。このような考え方では、ただ単に大脳の眠気の感度を鈍麻させてパフォーマンスの正しい評価ができなくなってしまうだけです。

脳は、意味を持って時間をゆがめていますが、睡眠中にも、時間の流れを表す周期を変化させています。

90分周期とは、ただの平均値なので、すべての人が90分であるわけではありません。また、同じ人が毎日同じ時間の周期で眠っているわけでもありません。その日によって、睡眠の周期は変化します。

ショックなことがあった日に寝つきが悪いのには理由がある

例えば、新しいことを学習した日は、脳に入力された新規情報が多く、睡眠中に神経の配線を変えたり、不要な神経を消去するなどの情報処理作業が増えます。すると、普段より周期は長くなり、110分や130分などになります。

菅原洋平『脳をスイッチ!時間を思い通りにコントロールする技術』(CCCメディアハウス)

また、昼間にショックな出来事を体験したとします。脳は、そのショックな出来事の記憶を定着させないように、記憶を定着させる役割を持つ深い睡眠をつくらないようにします。すると、寝ついたら20~30分で起きてしまったり、1時間ごとに目が覚めるなど、周期が短くなります。これは自覚的には睡眠が乱れていますが、脳が不要な記憶を消去してもとの状態に戻ろうとしている作業です。

昼間の出来事に合わせて、脳は自身を最適な状態にするために、時間の周期をゆがめているのです。この脳の調整作業を無駄にしないためにも、90分を逆算して就寝時間を決めることは控えましょう。起床時間はできるだけ毎日同じにし、夜に眠くなる脳をつくり、眠くなったら就寝する。このように自然なリズムをつくっておき、そのリズムに合わせるのがよいでしょう。睡眠中の作業の生産性を高めることは、そのまま昼間の生産性を高めることに当たります。

写真=iStock.com

菅原 洋平(すがわら・ようへい)
作業療法士

ユークロニア代表。アクティブスリープ指導士養成講座主宰。1978年、青森県生まれ。国際医療福祉大学卒業後、国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事。2012年にユークロニアを設立。東京都千代田区のベスリクリニックで外来を担当しながら、ビジネスパーソンのメンタルケアを専門に、生体リズムや脳の仕組みを活用した企業研修を全国で行う。著書に『あなたの人生を変える睡眠の法則』(自由国民社)、『すぐやる!』(文響社)などがある。