コロナウイルスの影響で生活の仕方が短期間に大きく変化しました。生活リズムがなかなか整わない……。在宅だからつい、お昼寝休憩をとってしまい夜に眠れなくなる……。そんな思いをされることもあるのではないでしょうか。生体リズムや脳の仕組みを使った人材開発を行う菅原洋平さんに、上手な睡眠サイクルの作り方を聞きました。

※本稿は菅原洋平『脳をスイッチ!時間を思い通りにコントロールする技術』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

若い女性がベッドで横になって
※写真はイメージです(写真=iStock.com/maroke)

なぜ人は午後になると眠くなるのか

私たちの脳は、1日に2回必ず眠くなるリズムがあり、それは、「睡眠‐覚醒リズム」と呼ばれています。

このリズムをつくっているのは、アデノシンなどの睡眠物質で、人間が「疲れたら眠る」という仕組みを司っています。

脳が眠くなるのは、起床から8時間後と22時間後です。22時間後は、深部体温が最低になる時間帯と重なります。「睡眠‐覚醒リズム」においても、この時間帯は起きていられない時間なのです。

起床から8時間後、6時起床ならば14時の眠気が、私たちの日中の仕事に影響します。

夜の時間帯に眠る必要性は分かりますが、脳はなぜ、昼の時間帯にも眠くなるリズムを持っているのでしょうか。その理由は、いまだに不明なのですが、脳が自身の働きを向上させるために、積極的に眠ろうとしているという知見が出てきています。

午後の眠気は脳のハーフタイム

そもそも脳が眠くなるというのは、神経細胞と神経細胞の間で情報を伝達するタンパク質のリン酸化が、脳の活動限界を知らせている状態です。まだ情報が届けられていないタンパク質は静かにしていますが、情報が届けられるとタンパク質にリン酸基が追加されてリン酸化します。これでタンパク質の形が変わり、隣のタンパク質をリン酸化することができます。リン酸化したタンパク質がまた隣のタンパク質をリン酸化して情報を伝達していきます。

このリン酸化が時間を数えるタイマーのような機能を果たしていて、一定の時間になると活動が限界になります。これが眠くなった状態です。そこで眠ると、リン酸化がリセットされ、また情報を伝達することができるようになるという仕組みであると考えられています。

私たちは、午後の時間帯に「集中したいのに眠い」と感じますが、脳にとってはハーフタイムのような感じなのかもしれません。午後の眠気を、後半戦に向けて作戦を立てる時間としてとらえ直してみて、「計画仮眠」を使ってみましょう。

睡眠データを1週間~1カ月分眺めると見えてくるものがある

最近は、スマホやウェアラブル端末で、睡眠のデータを記録している人も多くなっています。ただ、今まで睡眠のデータをうまく活かしている人に出会ったことがありません。

複数の睡眠データを使って、「こっちでは深睡眠が50%と出ているのですが、こっちでは20%と出ていて、どっちが本当なのでしょうか」と聞かれることさえあります。

私は、生体データをビジネス化することについて、様々な企業から相談を受けるのですが、「膨大なデータがあるのですが、これを何かに使えないでしょうか」という相談がほとんどです。データは、あるだけでは役に立ちません。取得する目的は行動の質を向上させることであって、振り回されたり、デバイスへの不信感のもとになるのは本末転倒です。もし、睡眠データをとっているとしたら、1日の睡眠のデータは生体リズムを整えるのにそれほど利用価値はありません。それよりも、2週間や1カ月という長いスパンでデータを並べてみてください。1週間以上のデータを並べる画面を開くと、自分が1週間のうちで絶対に眠っている時間帯である、コアタイムが見つけられます。

コアタイムが見つかったら、できるだけそのコアタイムを伸ばすように生活リズムをつくってみましょう。コアタイムを伸ばし始めたら、ぜひ、日常生活でパフォーマンスを測れる基準を使って、自分のパフォーマンスの変化を比較してみましょう。やみくもに週末に寝だめするより、コアタイムを伸ばす方がパフォーマンスが向上していることがデータから分かれば、根拠ある最適な行動として採用しようと思えるはずです。

眠気に慣れたら赤信号!

実は、私たちの大脳は、1週間で眠気に慣れてしまいます。大脳が眠気を感じなくなってしまうことが示された実験があります。

この実験では参加者に、画面にシグナルが出たらできるだけ早くボタンを押すという課題を14日間行ってもらいます。参加者は4つのグループに分けられて、それぞれ夜にベッドに入る時間数が決められています。ベッドに入らず徹夜、4時間、6時間、8時間というグループです。

実験の結果は、どのグループも同じように、日を追うごとに反応が鈍く、誤りが多くなっていく傾向が見られました。徹夜グループが最も成績の悪化が激しく、睡眠時間が長いほど成績の悪化が緩やかでした。このことから、睡眠時間が長いほどミスが少ないということが示されました。「それはそうだろう」と思いますよね。睡眠不足になれば、課題の成績が悪くなる、ということは想像しやすいと思います。

この実験で興味深いのは、課題を行ったときに「どのくらい眠いか」という眠気の度合いを答えてもらったことです。その結果は、徹夜グループは課題開始から1日目、2日目、3日目と日を追うごとに眠気が増していきました。しかし、4時間以上眠っているグループは、最初の1週間は眠気が強くなっていくのですが、それ以降は眠気の強さは一定になりました。

これは、パフォーマンスは低下しているのに大脳が眠気に慣れてしまい、それ以上睡眠が削られないと眠気を感じなくなっているということです。

仕事の繁忙期などで、1週間くらい毎日就寝が1時間遅れることは誰しも経験があると思います。その忙しい時期が終わったときのことを思い出してみてください。もう忙しくないはずなのに、帰宅後に時間に余裕がある感じがして、同じ時間まで起きているという行動をとったのではないでしょうか。

夜になっても眠気を感じない場合は

大脳は、省エネ戦略として行動をパターン化しますが、これが裏目に出ると、余裕があっても就寝が遅くなるのがパターン化されてしまいます。

大脳は眠気に慣れてしまっても、何らかの眠気のサインを出しています。目の奥が重くなる、テレビの音がうるさく感じる、唾液がサラサラになる、同じことをぐるぐる考える、体がかゆくなるなど、些細なサインを見つけて、そのサインが出たら脳が眠いのだと意識してみましょう。

眠気のサインを自己認識しつつ、朝は目覚めたら窓から1m以内で日の光を浴び、夕方には体を動かして深部体温を上げることを実行してみると、2週間程度であくびが出る日が多くなります。さらに、次の2週間ではあくびが出る日が増えていきます。こうなれば、眠くなったら就寝するということができるようになります。

睡眠時間90分サイクルは実は非効率

21世紀は「生体リズムの時代」と言われますが、より短い時間で高い成果を出すのが今の時代では求められています。意図的に就寝を遅らせて大脳を眠気に慣れさせていけば、睡眠時間は短くて済むようになり、活動時間を伸ばすことはできます。この考え方から睡眠時間を短くすることを目指す人もいるのですが、その場合、先ほどお話しした、大脳が再び眠気を感知できるようにする術も同時に身につけるようにしていただいています。

私たちは、睡眠中に意識がないので、眠っている間は脳がどのようなことをしているのか自覚することは難しいのです。そのため、睡眠に対して睡眠中に脳が行った作業の成果を評価するより、一律に時間数だけで評価してしまうことが多いのです。

睡眠時間を評価するときによく用いられるのが、90分リズムです。睡眠には、90分の周期があり、そのサイクルが終わる時間帯に目覚めれば、目覚めがスッキリするという考え方です。

90分サイクルが3回確保できる4時間半睡眠をやるために、6時起床だから1時30分に眠る。このような考え方では、ただ単に大脳の眠気の感度を鈍麻させてパフォーマンスの正しい評価ができなくなってしまうだけです。

脳は、意味を持って時間をゆがめていますが、睡眠中にも、時間の流れを表す周期を変化させています。

90分周期とは、ただの平均値なので、すべての人が90分であるわけではありません。また、同じ人が毎日同じ時間の周期で眠っているわけでもありません。その日によって、睡眠の周期は変化します。

ショックなことがあった日に寝つきが悪いのには理由がある

例えば、新しいことを学習した日は、脳に入力された新規情報が多く、睡眠中に神経の配線を変えたり、不要な神経を消去するなどの情報処理作業が増えます。すると、普段より周期は長くなり、110分や130分などになります。

菅原洋平『脳をスイッチ!時間を思い通りにコントロールする技術』(CCCメディアハウス)

また、昼間にショックな出来事を体験したとします。脳は、そのショックな出来事の記憶を定着させないように、記憶を定着させる役割を持つ深い睡眠をつくらないようにします。すると、寝ついたら20~30分で起きてしまったり、1時間ごとに目が覚めるなど、周期が短くなります。これは自覚的には睡眠が乱れていますが、脳が不要な記憶を消去してもとの状態に戻ろうとしている作業です。

昼間の出来事に合わせて、脳は自身を最適な状態にするために、時間の周期をゆがめているのです。この脳の調整作業を無駄にしないためにも、90分を逆算して就寝時間を決めることは控えましょう。起床時間はできるだけ毎日同じにし、夜に眠くなる脳をつくり、眠くなったら就寝する。このように自然なリズムをつくっておき、そのリズムに合わせるのがよいでしょう。睡眠中の作業の生産性を高めることは、そのまま昼間の生産性を高めることに当たります。