世界的な金融危機が日本を直撃した2008年秋。博報堂ではこれを機会に、同年12月末、富裕層に対して金融危機が与えた影響を調査した。意外だったのは、一口に富裕層と言っても、職業によって反応が大きく異なるということだった。大きく分けて次の6つの職種で、消費、投資に対する意欲に違いが見られたのである(分類の定義は図3を参照)。
1.中小企業の会長
2.中小企業の役員
3.個人事業オーナー
4.大企業のサラリーマン
5.自営業者
6.開業医・弁護士
たとえば、投資・消費とももっともダメージを受けているのは1の中小企業の会長で、投資について「消極的になった」と答えている人が75.0%にものぼる。一方、6の開業医・弁護士は所得・資産とも「変化なし」と答えた人が多い。
なぜこのような違いが出ているのか。まず、調査時は2008年の12月だったため、まだ大企業のサラリーマンの給料にほとんど影響が出てきていないということが一つ。それに対して中小企業のオーナーは、日々の商売を通じて変化を敏感に察知し、危機感を募らせたのではないか。従業員数30人程度の企業では、オーナーが社員はもちろん、その家族の顔まで知っている。彼らをクビにはできないし、給料を下げることもしたくないという思いが強い。だからこそ、ダメージがひときわ大きいのだろう。
富裕層全体で見ると、金融危機後は平均して資産の約3割が減っている。10億円の資産が7億円になっても、毎日の暮らしが変わるわけではない。しかし中小企業のオーナーにとっては、ストックが減るということは会社の資産も減るということである。事業の先行きに不安を感じるのも無理はない。
(博報堂 曄道 敬(金融ビジネス推進室)、小山 諭、中川広次(研究開発局) 構成=長山清子)