なだれ式に前倒しされた営業許可

この圧倒的なパフォーマンスには、コンテ首相もきちんとしたもてなしで応えるしかなかった。ポロシャツにジーンズというラフな姿で自転車から降りたバッケッタ氏を、首相は丁重に官邸に迎え、握手に代わるコロナ警戒下のあいさつである、肘と肘を合わせるポーズで写真におさまった。住民わずか1500人の自治体の長であるバッケッタ氏が、一国の首相との面会を果たすという、まさに快挙であった。

バッケッタ氏の努力が報われてか、レストランとバールの店舗営業再開は、当初予定の6月1日から5月18日に前倒しされた。それに伴い、美容院や小売店舗、スポーツジムやプールなどさまざまな業態にも、雪崩なだれ式に営業再開の許可が下りることになった。

密閉空間であるスポーツジムに許可が下りたのは日本的な常識から見れば理解しにくいが、ジムはただ単に身体を鍛える場所という位置づけでなく、バール同様にイタリア人にとっては大切な社交の場なのである。また、美容院については美容師側、市民側の両方から早期再開の要望が強く、前倒しどころか1日最長18時間、土日や指定の定休日(理髪店は月曜、美容院は火曜)に関係なく無休で営業できることになった。

もう会社に行きたくない?

一見、すべての経済活動が元に戻りそうだが、肝心の働き手の気持ちは複雑だ。公共交通での感染の不安、オフィス内でもマスクをしている不便さ。さらに予期せぬ影響を及ぼしたのが、外出禁止によるテレワークだ。

大手日刊紙「ラ・スタンパ」の調査によると、テレワークを経験した人々の75%もが、このまま在宅勤務を望んでいるというのだ。この傾向は女性に顕著に表れ、92%はテレワークでも仕事に支障はなく、34%はむしろ生産性が高まったと答えている。なお、回答者全体の54%には子供がいて、63%は仕事専用の部屋を確保できる住環境にあるという。

周囲に問うても多くの友人が「今のところ出社は週に1度。あとの日はテレワークが続いている」という。雇用側も手探り状態なのだろう。もっとも、イタリアの北部と南部では労働をとりまく環境が大きく異なるため、一概に「イタリアでは」とは言うことはできないが……。