レストランやバールの再開という大難問

「フェーズ2」最大のネックは、飲食店をいつから再開すべきかという問題だった。これにはイタリアの文化を象徴するバール(BAR、立ち飲みのカフェ)も含まれるため、さらにコンテ首相を悩ませた。

フェーズ2では店の営業面を考慮し、とりあえずレストラン、バールともに、それまで認められていたデリバリーに加え、5月4日からはテークアウト営業も許可されることになった。ただし、店舗の前で食べることは人が集まるため禁止。店内での飲食は6月1日より許可されることになったが、営業時には隣のテーブルと2メートル以上の間隔を空けるなどの、厳格なルールが設けられた。

だが、一般的な家族経営による30席程度の店舗では、これでは通常営業時の売り上げの3割しか見込めなくなる。テークアウト分と合わせても約5割にしかならないと、レストラン業界は不満の声を上げた。それに、3月・4月に加えて5月いっぱいまで閉店を強いられたのでは、従業員の雇用を維持することも難しい。

自転車でローマまで走り首相に「直訴」した首長

これに業を煮やした北イタリアのピエモンテ州ディヴィニャーノ(Divignano)という小さな自治体の首長、ジャンルカ・バッケッタ氏は、コンテ首相に直訴するため奇策を考えた。バッケッタ氏はバイエルン料理と地ビールのレストラン「Edelstube」のオーナーでもあり、両腕には見事なタトゥーが入った「ちょいワル」な雰囲気の好漢である。

これまでイタリア政府は、自営業者への支援給付金として600ユーロ(約7万円)を支払っているが、従業員5人を抱える経営者のバッケッタ氏に対しても、支払われたのはこの金額のみ。「従業員の保護を含め、店の維持には10万7000ユーロ(約1256万円)かかる。このままではレストランを続けることができなくなる」と思ったバッケッタ氏は、コンテ首相にその600ユーロを返還し、レストランの早期開業を直訴するため、自転車にまたがりローマまで約650キロの旅に出たのである。

この時点では、イタリアではまだ一般の人が州を越えて移動することは許されていなかったが、バッケッタ氏は外出申告書に「飲食店のデリバリーサービス。首相官邸にビールを届けるため」と書き込んでいた。途中、パルマやタルクィニア(ローマ近郊の都市)の市長とも面談。道中もイタリアの公人が公の場に出るときの証しである、イタリア国旗と同じ配色のたすきを常に肩から掛けていた。

バッケッタ氏の旅は地元のローカル紙はもとより、コリエレ・デッラ・セーラやレプブリカといった大手メディアにも取り上げられた(さらに、オートバイの総合ウェブサイトでも紹介された。バッケッタ氏がハーレーダビッドソンの有名な愛好家であったためだ)。