プラクティスフュージョンがどこから収益を得ているかといえば、薬を売る側である。同社の電子カルテシステムを使えば、患者のスマホに診療データや処方せんが送られてくる。必要な薬が近場のどのドラッグストアで売っているかまで表示されるのだ。

今やプラクティスフュージョンのシステムは総合医療の巨大プラットフォームとなり、アメリカの医療システムは激変した。

これに目を付けたのがアマゾンである。アマゾンは18年に「ピルパック」という新興のオンライン薬局を買収した。アメリカは今やプラクティスフュージョンから引き出した処方せんをアマゾンに転送するだけで薬が届く時代になっているのだ。しかも月10ドル払ってアマゾンプライム会員になれば配送無料。月に何度でもOK。さらに「当日お急ぎ便」や「日時指定便」といったサービスまで無料とくれば、ユーザーが殺到しないわけがない。

コロナ危機が日本医療システムに与えた、数少ないプラスの貢献

日本薬剤師会が一番恐れているのは、アマゾンが日本でも薬の流通に入り込んでくることだろう。もちろん既得権益と規制の壁は相当に高く、容易には入り込めない。それでも今回のコロナ禍によって、世界から遅れに遅れた日本の医療システムに小さな風穴が開いたのは確かだ。

私はコロナ危機を奇貨としてオンライン医療を患者中心の考え方に根本から見直すべきと考える。カルテが患者のものだ、という認識からクラウド上にすべての個人医療情報を集める。病院が替われば診断や検査をやり直すということも禁じる。遠隔診療のためには医者側が使うAIの充実も欠かせない。検査結果が出たらどのような治療をするべきか、医者の判断を側面支援するデータベースを構築する。

アメリカでは野戦病院で診断結果が出ると、治療に関しては専門家がいない場合が多いので20年も前からこのようなシステムを使っている。医者の処方もすべて個人医療情報システムに入力させ、これを時系列的に追跡できるようにする。このようなデータベースをお互いに共有すればオンラインでも“初診”ということはなくなる。すべての患者は日本の医療システムデータベースでは既存の患者、となるからだ。

今までの医者・病院という提供者の論理から患者中心のシステムに転換する。これができれば、長い間を経た後に、コロナ危機が日本医療システムに与えた数少ないプラスの貢献、と見返す日が来ることを期待しよう。

(構成=小川 剛 写真=読売新聞/アフロ)
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