「医師は、自ら診療しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し……または自ら検案をしないで検案書を交付してはならない」

医師法第20条にこうある。いわゆる「無診察治療」の禁止を定めた条文で、つまり触診なり、聴診なり、問診なり、医師は自分で「診察」したうえで、治療や処方をしなければならないのである。

そもそも無診察治療が禁じられている理由は、患者に適切な医療サービスを提供するためだ。たとえば、問診は電話でも可能だとしても、患者の顔色や容態を視診したり、あるいは同じ部屋で対面して触診や聴診してみなければ、正しい診断を下して処方することができない場合もある。

その後、2018年度の診療報酬改定で「オンライン診療料」が創設されて、オンライン診療の保険適用が始まった。ただし、健康保険が適用される「保険診療」の場合、初診は対面診療に限られてきた。

ということで、情報通信技術(ICT)が日進月歩の進化を遂げているにもかかわらず、日本ではオンライン診療がなかなか広がってこなかったのだ。

今回のコロナ禍で医療現場が逼迫し、医療従事者と患者がリスクにさらされる状況になったために、オンライン診療の有用性が広く認知され、ようやく門戸が少し開いたといえる。

門前薬局で待たなくてよくなる

20年4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」で、パンデミックが収束するまでの間、初診でのオンライン診療を認める方針が示された。

解禁された20年4月13日以降、患者からオンライン診療を求められた医師は、診断や処方が可能と医学的に判断すれば、初診の患者でもオンライン診療が行える(初診料の自己負担額は3割負担で642円)。処方には制限があって、麻薬性の鎮痛薬や向精神薬などは認められていない。

また患者のなりすましや、虚偽の申告による処方を防止するために、受診する患者、診察する医師双方ともに顔写真付きの身分証明書や保険証などによる本人確認を行うことが実施要件になっている。

今後、厚労省はウイルス感染の状況、医療現場での実用性や実効性、安全性などの観点から3カ月ごとに検証を行うという。初診患者へのオンライン診療は時限的な措置にとどまって、対面医療を補完するツールに戻るのだろうか。私はそうは思わない。アフターコロナの新常識として定着する可能性は少なくないと見ている。