自分で納得できる経済への認識を
個人にせよ、機関投資家にせよ、資金の運用を行う上で重要なことは、極力、価格が低い時に株式などの資産を購入し、高値で売却することに徹することだろう。高値掴みをすると、大きな相場の調整局面に巻き込まれて損失を抱えてしまうこともある。
想定外の展開を避ける一つの手段として、自分なりに市場環境の変化を理解しようとすることが大切だ。自分で納得できる経済への認識を持つことは、資金運用に欠かせない。世界的な新型コロナウイルスの感染拡大を受け、市場参加者の心理がどう変化してきたかを確認しつつ、経済と金融市場がどう変化してきたかを考えてみよう。
1月上旬、中国湖北省武漢市にて新型コロナウイルスへの感染が拡大した。当初、世界の市場参加者はその影響を過小評価したようだった。米国経済がウイルスの影響によって落ち込むことは避けられ、世界経済全体でそれなりの落ち着きが維持できると先行きを楽観する投資家らは多かったとみられる。
その背景には複数の要因がある。まず、世界的な低金利環境下、多くの市場参加者はより高い利得を求めて株式など相対的にリスクの高い資産に資金を振り向けていた。11月に米国大統領選挙を控え、トランプ大統領が景気対策を打つとの見方も、多くの投資家が株式に資金を振り向ける要因となっていたようだ。米中が通商摩擦の第1段階合意に至ったことも楽観を支えただろう。
また、過去数年間の価格トレンドなどをフォローするアルゴリズム取引などが普及し、株価の上昇トレンドが支えられた。こうした複合的要因が重なり、世界の株式市場では“買うから上がる、上がるから買う”という強気心理が膨らんだ。
2月中旬まで、米国を中心に世界の株価は過去最高値圏で推移した。新型コロナウイルスの影響への懸念から世界的に株価が下がる場面を押し目買いのチャンスととらえる投資家は多かったとみられる。見方を変えれば、多くの人がリスク(将来に対する不確実性)に鈍感になっていたということだろう。
リスクを理解することの重要性
次に重要なのが、リスクとは何かを確実に理解することだ。
徐々に新型コロナウイルスが人の移動を制限し、世界全体で需要と供給が寸断されはじめた。2月下旬に差しかかると、米国経済にも感染の影響が波及するとの警戒が強まり、世界的に株価が下落した。その後、3月6日には、産油国が協調減産の継続に合意できなかったことも重なり、世界的に価格の変動リスクがある資産を売却し、価値が安定している現金を保有しようとする動機が高まった。
それは、多くの市場参加者の先行きへの楽観論が崩れたことを示唆する動きだったといえる。新型コロナウイルスの“リスク”の大きさに目覚めた投資家が増え、リスクを削減する“リスクオフ”が急速に進んだ。
リスクとは、予想と異なる結果を意味する。たとえば、株価が下落すると思って株を買ったとしよう。その後、予想と裏腹に株価は上昇した。これがリスクだ。その逆も然りである。リスクは危険(何らかの行動をとることで負の影響が起きると予想されること)とは異なる。リスクは不確実性に関する概念だ。あたりまえのことではあるが、将来は不確実だ。